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急いでも新幹線は倍速できないから、走れるところは走って事務所に直行。事務所に着くと、いつも俺が座っているオフィスチェアに佐竹さんが座ってパソコンの画面を見ていた。
「ああ、ごめんね。わざわざ来てもらって」
「いえ……どういうことですか?」
「うん。これ」
佐竹さんが指差す画面を見ると、たくさんのスタッフからの似たようなタイトルのメールがずらりと並んでいる。プレビュー欄を見ていくと、どれも一身上の都合で退職しますとの内容。
「一人だけ口割ったんだけど、派遣先のホテルの経理担当から『会社を通さずにうちと直接契約したら給料を今よりもらえるようになるけどどうですか』とか『福利厚生もしっかりしてますよ』とか色々言われて誘われたんだって」
「みんな?」
「たぶん」
「……どこのホテルですか?」
「――――」
一つじゃない……でも全部同じグループ経営のホテルだ。
確かに、ホテル側はうちにマージンを上乗せした支払いをするより、スタッフと直接契約すればこれまでより安い金額で同じ人間を雇える。ホテル側が、給料が今よりもらえるようになると言うなら給料が上がるのかもしれないけど……でも、これっていいの? それに、みんなも誘われたからってそんなに簡単に移って本当に大丈夫なの?
ていうかこれだけ抜けたら……。
「……会社、どうなるんですか」
「まあ、無理だろうね。なんとか続けられても、大知くんの給料がちゃんと出せるかはっきりしないから、雇用は継続できない」
「……」
「とりあえず、顧問弁護士の先生に相談する」
「……はい」
「私はこの会社一本じゃないからいいけど、大知くんは早めに転職先探して」
「……わかりました」
だけど俺だけじゃないんじゃないの? 残ったスタッフも困るし、他のホテルだってバンケットスタッフが来なくなったら困るだろう。
……いや、他のホテルは別の会社と契約すればいいから、やっぱり残ったスタッフと俺か。佐竹さんはもう一つの会社があるから、そっちだけでも食べていける。
「とりあえず今日は帰ろうか、なにもできることないし。せっかく来てもらったのにごめんね」
「いえ……」
「ソロ旅、どうだった?」
「……まあ、よかったです」
「そう……」
開成のお父さんがすごく健康体なのに「死ぬ前に」って言ったのってこういうことか。こういう風に、いつ、なにが起こるかわからないんだ。
つまり、突然開成と二度と会えなくなることもあるわけで……そうなってしまったとき、俺は後悔しないか……?
「……」
……絶対、後悔なんかじゃ済まない。
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