海と笑顔

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「……」 「気持ちいいね」 「……近くない?」 「うん。近づいてる」 なんだろう、この距離感……警戒したほうがいいんだろうか。 「こっちおいで」 「え」  なぜか肩を抱かれて、開成の脚の間に座らされる。背後からお腹のところに腕が回ってきてきゅっと抱き寄せられ、身体が密着した。 「あの……開成?」 「んー?」 「この体勢、なに?」 「落ち着くよね」  肩に顎がのって、完全に抱きしめられているけど、これって恋人同士の距離じゃないのか。どういうつもりだ。  頭の中が疑問符だらけになっていたら、うなじをすっとなぞられた。変な声が出そうになって慌てて唇に力を入れる。 「声出してよ」 「……」 「忍の声、聞きたい」 「やっ……」  腰を撫でられ、くすぐったさに希望通り声が出てしまう。うしろから顔を覗き込まれ、唇が重なった。 「っ!? ……んっ、ふ……ぅ、ぁ……はぁっ」  なんで俺、開成とキスしているんだ。ていうかキス……気持ちよすぎる……。  開成の舌がいやらしく動き、俺の舌や上顎を撫でる。上顎や歯茎を優しく舐められるたびに身体がびくびく震えてしまう。身体が反応するとお湯が揺れ、その感覚にさえぞくぞくする。呼吸も舌も思考も絡め取られてどんどん力が抜けてきて、ちゅっ、ちゅっと音を立てて唇が離れたときにはくたりと開成に身体を預けていた。 「……はぁっ……」 「忍、すごく感じやすいね。ほんとかわいい」 「ひぁっ!」  脚の間に開成の手が滑り、キスだけで勃ってしまったものに触れる。握られただけで達してしまいそうで身体を捩ると、首に舌が這ってまた熱が高まる。 「や……」 「うん。とりあえずここまで」 「……?」 「出ようか。のぼせる」  身体を支えられて風呂から出る。頭がぼうっとして足がふらつく俺の腰を抱き寄せて、開成が脱衣室まで連れて行ってくれる。  タオルで拭かれて浴衣を着せられるところまで全部されるがまま。ぼんやりと開成を見上げると、困ったように微笑まれた。 「……?」 「その顔、だめ」  身体の中心がもぞもぞする。中途半端な触られ方をしたからかもしれない。開成が部屋に戻ったら自分で処理しようと考えながらソファに座ったら、開成も隣に座る。 「ご飯どうする?」 「……うん」 「さっき買ってきたもの食べてもいいけど」 「……うーん」  それより早く部屋に戻ってくれないかな、と顔を見るとまた微笑まれた……綺麗な笑顔にどきりとしてしまう。端正な顔が近づいてくるので、開成の胸を押して距離を取る。 「忍?」 「……なんで?」 「なんでって?」 「こういうの、やり慣れてる?」 「こういうの?」 「……」  口を噤む俺に開成が「ああ」と言う。 「『旅の恥はかき捨て』、みたいな?」 頷くと笑われてしまった。 「まさか。忍だからだよ」 「……嘘だ」 「なんで嘘だって思うの?」 「だって開成は俺のことなにも知らないし、俺も開成のこと、なにも知らない」  それなのに俺だからって言うほうがおかしいし信じられるわけがない。 「なにも知らなくたって忍がいいから」 「……」 「それじゃだめ?」 「……俺のどこがいいの」 「感じやすいとこ」 「は?」  今なんて言った? 「手触っただけでびくってするのもかわいいし、キスだけであんなになっちゃうなんて……やらしい」 「……」 「ちょっとしたことでもすごく嬉しそうにするのはもっとかわいい。海鮮丼の具がたくさんだとか、花が綺麗とか、海が綺麗とか。風が気持ちいいだけでも忍は幸せそう」 「あ……」  唇が重なって、抵抗しようとするのに力が入らない。また身体が熱を持って、頭がぼんやりしてくる。着せられたばかりの浴衣が乱され、露わになった肌にもキスが落ちる。唇が触れるたびに身体が跳ねて、開成は口元を緩めながらまたキスを落とす。せっかく落ち着きかけていたのに、また勃ち上がった昂りに開成の大きい手が触れ、下着を脱がされた。昂りを扱かれながら胸の突起を口に含まれ、開成の着る浴衣を掴む。 「っや……」 「これだけですごい濡れてる」  熱い息が尖りに触れ、ぞくっとして身体を捩る。昂りに触れる手の動きに合わせて濡れた音がして恥ずかしい。その濡れた先端を指先で撫でるようにされると腰が跳ねてしまい、過敏に反応する俺を見つめる開成は楽しそうだ。逃げたいのに、身体は気持ちいいことを悦んでいる。 「ん……ぁ」  昂りを扱かれて先端を撫でられ、胸の突起も舌と歯でいじめられて思考が溶けていく。快感に抗えない。  突起が解放されて、また唇が塞がれた。深いキスに脳が蕩けて自分の形がわからなくなっていき、唇が離れて行くのが嫌でしがみついてしまった。 「ん。かわいい」 「あ……ふ、……っ!」  昂りの先端をくりくりといじめられ、どんどん溢れてしまうのが自分でもわかる。高められて高められて昇り詰めた俺は、開成の手の中で達してしまった。 「はぁ……ぁっ……」  開成は白濁で濡れた手をじっと見て、それからその手を俺の奥まった部分へと持っていく。乱れた呼吸を整える俺にキスをしながら開成の指が後孔に触れるので、身体が強張った。 「開成……?」 「大丈夫」 「……だいじょぶじゃない」 「もっと気持ちよくなりたくない?」 「……」  なりたい……って思ってしまう俺はどうなんだ。  口を噤むと開成は優しく笑む。 「嫌ならしないよ」 「……」 「忍が選んで」 「……ん……っ」  耳元に顔が近づく。 「……でも、任せてくれたら絶対気持ちよくしてあげる」  甘く低い声と吐息を耳に感じて、ぞくぞくぞくっと背筋を快感が駆け上る。それだけで果てたものがまた熱を持つのがわかる。指が後孔の周りをなぞり、とんとんと軽く叩く。 「忍、どうする?」 「あ……」 「忍……」  ただ名前を呼ばれるだけでくらくらする。だめだと思うのに、もっと気持ちよくなれるってどんなだろうと考えてしまう。  開成は微笑んだまま、俺の答えを待っている。指はくるりくるりと後孔をなぞる。  拒否して開成には部屋に戻ってもらい、さっさと寝よう。寝たら忘れる。それで明日になったらさくっと帰ろう。決めた、そうしよう。  口を開く。 「……気持ちよく、して……」  俺、すごく馬鹿だ。
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