海と笑顔

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 昼前に、予想通り「未確定」と大きく太字でタイトルに書かれたスケジュールリストが届いた。それをもとにスタッフのスケジュールを組んでいく。  少ししたら開成が清掃後の客室チェックに行ったので、また支配人室に一人になってしまう。小さく溜め息をついてから、一人ならいいかと前月分の締めをして請求書を作成する……ミツマホテルさん宛ての。  さすがにここで他のホテル宛ての請求書を作成する勇気はない。明日、他のものも全部作成してから、事務所でプリントして郵送するものは郵送しよう。 「あー……」  なんだか変なの。やっていることはいつもと変わらないのに、場所が違うと肩が凝る。しかも、取引先の支配人室って……一人で置いてくなよ。  事務所の硬いオフィスチェアと違って、座り心地のいいソファも落ち着かない。お腹も空いてきた。  そういえば、お昼ご飯はどうしたらいいんだろう。近くのコンビニに買いに行こうかな。 なんにしても、開成が戻って来てからだけど。 「……」  静かだ。レースのカーテンの向こうには、うっすら海が見える。  窓に近寄り、カーテンを少しだけ開けて外を覗くと、綺麗な海が広がっている。開成と出会ったソロ旅でも海を見た。まだ全然日にちが経っていないのにもう懐かしく感じる。  あの日の海を思い出していたら、開成の体温まで思い出してしまった。いけない。 「海、見てたの?」 「開成……」  突然、背後から抱きしめられた。いつの間にか開成が戻って来ていたようだ……気づかなかった。 「お腹空いたでしょ。待たせてごめんね」 「ううん。コンビニ行ってきていい?」 「だめ。一緒に食堂行こう」 「……それ、従業員用じゃないの」 「忍もうちに派遣されてるからいいの」  お昼ってことは、開成は休憩か。従業員用通路を通って、二人で食堂へ。開成は、会う従業員一人ひとりに必ず丁寧に声を掛けていく。こういう丁寧さは性格だろうな。 「すごいね」  歩きながら言うと、開成が「なにが?」と聞く。 「休憩中なのにしっかり仕事してて」 「うん。頑張りたいから」  恰好いいな、と思いながら開成を見る。見た目とかじゃなくて、その姿勢が。 「忍が優しいから頑張りたいって思えた」 「俺?」 「うん。たくさん頑張ったら褒めてくれる?」  子どもみたいなきらきらした瞳で俺を見るから、思わず目を逸らしてしまう。 「……どうかな」  どきどきする。開成に気づかれないように小さく深呼吸をした。  食堂で開成とお昼を食べて、それからまた支配人室に戻る。室内に入った途端に抱きしめられた。 「触っていい?」 「……もう触ってる」 「もっと」 「だめ……って言ってる」  開成が俺のベルトを外すので、その手を掴む。頬にキスをされて、開成のほうを見てしまう。まずい、と思ったときには唇が重なっていて、力が抜けていく。  ファスナーを下ろす音、ホックが外されスラックスがすとんと足元に落ちる。 「……だめ」 「だめじゃないじゃん。キスだけでこんなになってる」  下着越しに昂りをなぞられ、声が漏れそうになって慌てて手で口を押さえる。もう脚ががくがくしている。 「下着……汚れるから……」 「脱ごうか」 「そうじゃない……っ」  下着をおろされて熱い吐息が零れてしまう。昂りを扱かれて、もういく……と思ったところで手を離された。 「ここまで」 「え……」 「後でゆっくりしよう?」  こんな中途半端なところで終わらせるなんて。いきたくてつらくて、離れてしまった開成の手を取ってもう一度昂りへ戻す。 「かわいいね。でもだーめ」 「……いじわる」  ティッシュで拭われて、下着やスラックスを元に戻される。もぞもぞして嫌な感じ。  俺が悶々としているのに、開成はチェックインのお客さまへの挨拶のためにフロントへ行ってしまった。パソコンに向かうけど、集中できない。カーテンを少し開けて、また海を見る。しばらくそうしていたら徐々に落ち着いてきた。 「……ロビーに行ってみようかな」  海を眺めていたら、なぜだかすごく開成の笑顔が見たくなった。
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