「かわいい」よりも

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◇◆◇ 「誕生日おめでとう、誉!」 羽海の部屋でテーブルに並べられた料理の数々。 手作りだろうか。 ちょっと焦げた部分があったり、形が歪だったりするからきっとそうだろう。 「誉?」 「あ、いや…嬉しいなと思って」 「頑張ったから、早く食べよう」 あれからほとんど毎晩羽海に抱き枕にされて今日になった。 羽海のにおいがないと落ち着かないくらい、羽海のそばに慣れてしまった。 羽海に抱き締められているととてもよく眠れる。 その羽海が冷蔵庫から出してきたのは、ちょっと高いビール。 「大丈夫か? 生活費」 「あのさ、誉。そういう、雰囲気ぶち壊すこと言わないでくれる?」 「…悪い」 雰囲気がなにかもわからないけれど。 普段ビール自体あまり買わないという羽海にこんなに金を使わせてしまっていいのだろうか。 料理の材料だってただじゃない。 でも少しだけでも金を出すって言ったら怒るだろうなぁ…いや、“だろう”じゃなくて絶対怒る。 「誉」 「…悪い」 「わかってるなら俺のことだけ考えて」 少し怖い顔をして見せる羽海が可愛くて、つい笑ってしまう。 また羽海の眉間に皺が寄ったので、そこに触れてマッサージしてやると羽海が頬を赤らめる。 「なにするの」 「せっかくかっこいいのに眉間に皺ができたらよくないだろ」 「……覚悟してね、誉」 「今度はなにを覚悟したらいいんだ」 もうしっかり羽海なしじゃだめになっている。 次はなんだ。 俺の手を取った羽海が、指先にキスをする。 「今夜は寝かせないから」 「っ!?」 慌てて手を引くけれど、羽海の真剣な表情は崩れない。 「食事が冷めるな…」 羽海から目を逸らしてビールを取ろうとしたら羽海が先に缶を取り、ペーパーナプキンで飲み口を拭いてプルタブを上げてから俺に渡す。 「前も思ったけど、そこまでしなくていい」 「俺がしたいの。誉の唇に触れるのは俺だけでいい。間接でも触られたくない」 おかしな奴。 羽海は自分の分もプルタブを上げて、それから缶を軽くぶつける。 「誉、大好きだよ」 「…『誕生日おめでとう』じゃないのか」 「真っ赤になってる」 そりゃなるだろう。 隙あらば気持ちを伝えてくる羽海。 素直に返せない俺。 いつも羽海のほうが余裕で、俺はいっぱいいっぱい。 「あーあ、また年がひとつ離れちゃった」 「六歳差も七歳差もたいして変わらないだろ」 スモークサーモンのマリネが美味しい。 スペアリブもこんがり焼けててビールがすすむ。 「変わるよ! 俺はちょっとでも誉に近付きたいのに…」 「年齢ばかりはどうしようもない。諦めろ」 「……」 すごく拗ねた顔。 髪を撫でて梳いてやると、羽海がその手を取って手のひらにキスをする。 やんわりと唇が触れて離れた。
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