「かわいい」よりも

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「俺が今の誉の年齢になったら、誉は…三十五。七夕のお願いに誉より年上にしてくださいって書けばよかった」 「七夕は昨日だ」 「そう。それなのに誉からの告白はなかった」 またむすっとしてる。 「七夕はサマーバレンタインなんだよ。俺はちゃんと好きって言ったのに…」 「…へぇ」 「知ってたって顔してるね」 「さあ?」 知ってたけど。 それに。 「七月七日はサマーラバーズデーでもある」 「そうなの? なにするの?」 「意中の人にプレゼントを贈るんだ」 羽海の手のひらにプレゼントをのせる。 「…鍵…」 「うちの合鍵だ。いつ来てもいい」 「……」 羽海は手のひらの鍵をじっと見て、俺を見る。 「“意中の人”?」 そこか。 顔が熱くなってきた。 「俺って誉の意中の人?」 「…そういうことを聞くな」 「意中の人…」 「一日過ぎたけどな」 「俺から誉への誕生日プレゼントが霞んじゃう」 クローゼットから紙袋を取り出して、俺に差し出す。 「誕生日おめでとう、誉」 「ありがとう。開けていいか?」 「だめ」 「わかった」 ラッピングを解く。 羽海が慌てる。 「だめって言ったじゃん!」 「聞こえなかった」 「『わかった』って答えた!」 「気のせいだ」 ボックスを開けると、高級文具ブランドのシルバーのボールペンが現れた。 これは…。 「高かっただろ」 「あのさ、誉…」 「雰囲気を壊している自覚はある」 羽海が俺の頬を軽くつねる。 「誉は、にこっとしてくれたらそれでいいの」 「そう言われるとできない」 「かーわいい」 端正な顔が近付いてきて、瞼を下ろす。 でもいつまで経ってもなにもない。 目を開けると同時に手のひらにもうひとつプレゼントがのせられた。 「俺も、あげる」 「……入り浸るぞ」 「そうして」 ようやく唇が重なる。
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