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◇◆◇
連絡なし。
時刻は十一時を過ぎた。
寝る準備を整えて、ベッドに入って溜め息を吐く。
「もう寝るか…」
寝付けないだろうけど。
それはもともとか。
でも今夜はいつも以上に寝付けないだろう。
頭の中には羽海が浮かぶ。
「…別に、羽海と俺はなんでもない」
だから羽海を気にする必要もない。
それなのに、悲しげに揺れる瞳が脳に焼き付いて離れない。
寝ないといけないのに眠れない。
身体の向きを変える度に溜め息。
なんでもないわりには気にしてるじゃないか。
スマホが鳴った。
「はい」
『…誉、起きてた?』
「寝ようかと思ったけど、眠れなくて困っていた」
『そう…』
沈んだ声。
『今日の約束って、誉にとって迷惑だった?』
「え?」
『…嫌だったのかなって思って』
嫌だったか。
…嫌じゃない。
でも、戸惑いはあった。
正直に言ったらどうなるのか。
そこにも戸惑いがあるけれど、気持ちを伝えなければ羽海が離れてしまう気がした。
どうしてだろう、羽海が離れて行くことが辛い。
「……嫌じゃ、なかった」
緊張で手が震える。
どういう言葉が返ってくるだろう。
『……』
「羽海?」
『……ほんとに嫌じゃないなら、今すぐうち来てよ』
「え…でも」
もう遅い。
こんな時間に行ったら迷惑にならないか。
『嫌なら来なくていい。それが誉の気持ちだって思うから』
プツッと一方的に電話が切られた。
通話終了画面を見つめる。
ロック画面に表示が戻り、スマホを置く。
「…行くか」
マンションを出ると、アパートの前に羽海がいた。
「嫌なら来なくていいって言ったくせに、待ってたのか」
「……」
声を掛けてもこちらを見ない。
「来なかったらどうするつもりだったんだ」
「……信じてたし」
拗ねた顔。
馬鹿な奴だな、と思うけれど、存外そういうところも……。
「……そうか」
「え?」
「早く部屋に入れろ。いつまでも部屋着でうろうろしたくない」
「……」
まだ拗ねた顔をしながら俺の手を引く羽海。
どきどきする。
熱い頬を夜風が冷ましてくれるけど、追いつかない。
羽海の部屋に入るとき、少し足が竦んだけれど、また羽海に『可愛い』と言われそうだから勘付かれないように足を進めた。
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