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◇◆◇
「飲んでたのか」
「……誉だって飲んでたでしょ」
「そんなに飲んでない。知ってるだろ」
「……」
また拗ねた顔をする。
「なにをそんなに拗ねてるんだ」
ラグに座ると、羽海も隣に座る。
「…わからない?」
「俺の行動が気に入らなかったんだろうけど…」
「……」
「あいつは同じ会社の奴で、それだけだから」
「……手、握られてた」
むすっとしている。
やっぱりあれか。
「相談を聞いてくれと言われただけだから」
「……」
「本当にそれ以外なにもないから」
「…誉はそんなに簡単に人に手を握らせるの?」
「握らせたんじゃなくて握られたんだ」
意外としつこいな。
でもそこも可愛いと思ってしまう…重症だ。
「じゃあ俺も握る」
ぎゅっと俺の手を握って、ようやく羽海の口元が緩む。
「誉の手、あったかい」
なにがそんなに嬉しいのかわからない。
でも羽海が笑顔ならそれでいいかなと自由にさせていたら、なぜか手を引かれて抱き締められた。
「う、羽海…?」
「寝よっか」
「寝るのか? 本当に?」
「本当に」
俺の手を離さないままベッドに入る羽海。
どうしようかと思うけれど、仕方ない、と俺もベッドに入ると、羽海のにおいがした。
急に心臓が暴れ始める。
羽海に抱き締められて、鼓動がこれ以上ないくらい速くなる。
「…羽海、これは眠れない」
「大丈夫。眠れるよ」
抱き締める腕に力がこもる。
羽海の唇が額に触れた。
顔が猛烈に熱くなって、離れようともがくけれど押さえ込まれた。
「暴れちゃだめ」
「それなら変なことするな…っ」
「可愛い、誉」
「…っ」
顔だけでも背けたいのに、羽海と向かい合った状態から動けない。
羽海の長い睫毛がすぐそばに見える。
こつん、と額と額が軽くぶつかった。
「可愛い…すごいどきどきしてる」
胸に手を置かれ、脈の速さがバレた。
「…可愛いは、やめてくれ」
「それ、好きって言ってっておねだり?」
「ちが」
ちゅっと唇が触れる。
柔らかな感覚に一瞬息が止まった。
「好き…誉」
抱き締める腕の力の強さも、触れる肌の滑らかさも、温もりも、においも、全てが俺をおかしくする。
優しい羽海のにおいが妙に蠱惑的に感じる。
ぐっと腰を擦り寄せられて、硬いものが太腿に触れる。
「……羽海、当たってる」
「興奮しちゃう?」
「…しない」
口ではそう言っても、全身が熱くなってくる。
くらくらして息苦しい。
「誉って、経験あり?」
「は? なんの?」
「ここの」
つつ、と腰から尻をなぞられて、びくんと大きく身体が跳ねる。
なにを聞かれてるかは理解できるけれど、頭が回らない。
「……」
「したことある?」
「……ない」
この答えでどうなるんだろう。
でも嘘を吐いたらもっとよくない方向にいきそうだ。
さっきの羽海の拗ねた顔が浮かぶ。
「……っ、羽海は、あるのか…?」
「なにが?」
「その…そういう経験」
「あるけど、男の人とはしたことない」
ちょっとショックを受けてる自分にどきっとする。
「誉、俺が好き?」
「……」
「嫌い?」
「……嫌いじゃない」
「じゃあ好き?」
「………たぶん」
「そっかぁ…」
羽海が少し沈んだ声を出す。
「『たぶん』、かぁ…」
「あ…」
傷付けてしまっただろうか。
自分でもはっきりわからないからそう答えたけれど、“たぶん”じゃなくて、ちゃんと好きなんだと思う。
だって羽海のにおいでこんなにどきどきしている。
羽海の温もりで心が和らいでいる。
「覚悟して、誉」
「なにを?」
「誉が絶対離れたくないってなるくらいまで俺を好きにさせるから」
「……」
またぎゅうっと抱き締めて、俺の額にキスをする羽海。
「俺なしじゃだめになるくらいにしてあげる」
唇が重なって、ちゅ、ちゅと優しく触れて離れる。
「誉…」
甘い声に脳が蕩ける。
少し唇が離れて、俺の名を呼んで、また唇が触れ合う。
「好き、誉…」
もう一度唇が離れて、甘く囁かれて。
それからまた唇が重なる。
「……俺も」
どくんどくん言ってる心臓と熱い頬…どっちも羽海にはバレてるんだから、俺がなにを言おうと受け取られるのはひとつの答えだけなんだけど。
それでも俺も一番の想いをこめて羽海に告げる。
「羽海が、好きだ」
俺からそっと唇を重ねて羽海の顔を見ると、羽海は瞼を下ろして寝息を立てている。
眠ってしまったんだろうか。
じゃあ今のは聞こえてなかった…?
少しがっかりしながら、寝ているなら、ともう一度キスをして俺も目を閉じる。
羽海のにおいは優しいにおい。
落ち着くにおい。
ほっとするにおい。
心臓が跳ねて、心がふわふわする。
大好きなにおいを胸いっぱいに吸い込んで、眠りに就いた。
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