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素早く振り向くやいなや、光は背後に妹を庇うようにして立ち上がり、手近にあったフォークをつかんだ。刃を向けるようにして、謎の侵入者をフォークで指す。
「誰だお前!」
怒鳴りつけた次の一言が、思わず詰まった。いつの間にか家の中に入ってきていた男の、奇妙な外見に目を奪われたからである。
カーテンを閉めた窓のそばに立つ長身の男が、長い銀白の髪を揺らしていた。
室内を照らし出す明かりを全て吸い尽くすほどに、肌は白く、透き通っている。真夏の空の奥を煮詰めたような青い瞳が、じっと2人を見つめていた。
珍しい風貌の青年である。いや、そもそもどこから入ってきたのか。入口の扉は、鍵をかけていたはず──
「鍵、開いてたよ」
「嘘だろ」
青年の何気ない一言に、光はさっと青ざめた。
戸締まりさえまともにしていなかった。いつ、どんな輩が入ってくるかも分からない。例えば、この銀髪の男みたいに。
後ろで怯えている様子の三陽を隠しつつ、光は、フォークを強く握りしめた。粗末な武器だが、いざとなれば顔面に突き刺してでも追っ払う。妹だけでも守らなくては。
しかし、銀髪の男のふざけた自己紹介が、光の覚悟をへし折った。
「すまないねえ、驚かせてちゃって。僕の名前はアルツというんだ。天界からこの地に舞い降りた天使さ」
誰もが虜になってしまうような、完璧な微笑を浮かべて、彼は名乗った。
「お2人さん、何やらお困りのようだね。こんなところで見捨ててしまえば、天使の肩書きが泣く。そうだな・・・・・・ひとつだけ、なんでも願いを叶えてあげよう」
しかも、光が口を開くより早く、彼は続けたのであった。
光が何より望んでいた言葉を。ありえないと思っていた天からの恵み、予想外の福音を。
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