探偵小説なら、これは事件の始まりかもしれない

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探偵小説なら、これは事件の始まりかもしれない

 妹である三陽(みはる)がずいぶんとやつれているのを見て、柏木(かしわぎ) (ひかる)は決心した。  彼女には休息が必要だ。今すぐにでも、大量のマスコミやファンの目から逃してやらなくては。 「兄さん・・・・・・ごめんね。久しぶりに来てもらったのに、迷惑かけちゃって」 「大丈夫だ。それよりも、心配なのは三陽の方だよ。隈もひどいし、あまり眠れてないのか」  昔よりいくらか細くなったように思う彼女の手を取り、そっと椅子に座らせる。疲労と睡眠不足のせいか、動きはのろく、緩慢であった。  人里から離れたこの別荘は、森の中にあり、三陽の職場がある都会とは時間の流れが違う。うっかりその緩やかさに身を任せてしまいそうだが、それはまずい。  大スターである三陽のスクープを狙う連中は、都心部に行けばごまんといるのだ。先ほども、光はここまでやってくる道のりの途中、背後にカメラを携えた人物の気配を感じとっていた。  なんとかうまく尾行をまいてここにたどり着いたものの、あの調子ではいつかこの別荘に新聞記者たちが押しかけてくるかもしれない。 「マスコミのやつら、こんなに追いかけ回して・・・・・・仕事に影響が出たらどうするんだ」  ぐったりとする三陽に、湯気のたつココアを渡しながら、光は憤慨した。  しかし、熱く甘い飲み物に口をつけた彼女は反対に、薄く微笑む。光によく似たその控えめな微笑みは、今までに何度も雑誌の表紙を飾っていた。 「仕事は大丈夫よ。さすがにマネージャーも、ここまでマスコミがどこにでもついてくるのは良くないって。最近はストーカーもいるし、ほとぼりが冷めるまで、しばらく休んできなさいって言われたもの」 「それが正しいな。でも、どうしろってんだ。こんなに毎日、追っかけ回されて」  ため息をつく光を慰めるように、三陽は再び、穏やかに笑った。 「それくらい私が有名になってるってことだもの、仕方ないよ。ただ、やっぱり・・・・・・ゆっくりできる休暇はほしいかな」 「当たり前だろ。ここんとこ、ずっと仕事ばかりじゃないのか?そろそろ休まないと、心も体も壊すぞ。なんとかしてマスコミの奴らを追っ払わないと」  思わず、光がそう口にしたときだった。 「こんにちはー、お邪魔してまあす」  知らない男の声が、近距離で明るく挨拶した。
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