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◇◆◇
おまけ
◇◆◇
俺も尚紀もバイトを始めて、時間がすれ違うことも出てきた。
だから尚紀は尚紀なりに俺に気を遣っているのかもしれない。
俺は俺なりに尚紀に気を遣うんだけど…。
「衛介の馬鹿!」
「悪かった」
素直に謝る。
でも、と続けようとしたら。
「ばかばかばかばか!!」
始まった。
尚紀の“馬鹿”は、始まるといつまでも続く。
可愛いけど。
「俺は衛介の好きなようにしたいって言ってるのに!」
「だからそれじゃだめなんだ」
「それでいいんだよ! 俺が好きなのは衛介なんだから!!」
だいぶ“好き”の形が整ってきたようにも思う。
掠めるようにすれ違っていた感情がぶつかるようになった。
尚紀は自分のことは自分で考えながら、衛介が気になるから衛介のことを教えてとねだる。
その度にふたりでゆったりした心を持ちながら話すけれど、俺はついまた尚紀を囲い込みたくなる。
手の中に戻したくなる。
でも、もう尚紀はそう簡単にはいかない。
暴れてわめいて、俺の手の中には収まらない。
スマホのチェックなんて絶対無理だ。
だけど尚紀がパスコードを変えていないことは教えてくれたので知っている。
「ばかばかばかばか!! 衛介なんて嫌いだ!!」
「!!!」
「………嘘。好き」
ほっとする。
俺に“嫌い”も最近よく言うようになった。
でもすぐに訂正するからほんとに可愛い。
言った尚紀自身だけでなく、俺もダメージを受けることを尚紀はわかっている。
「好きだから、衛介が行きたいとこ行こう? せっかく明日、休みが重なってるんだから」
それでも俺は尚紀の行きたいところを教えてもらいたい。
尚紀がなにを好んで、どんな場所だと喜ぶのか。
色々な尚紀をたくさん知りたい。
そう言うと。
「もういい!」
部屋に閉じこもってしまった。
ドアをノックして声をかけても返事がない。
「………はぁ」
そこまで腹を立ててるのか。
難しい。
今までの反動か、尚紀は怒ったら爆発する。
爆発を初めて目の当たりにしたときにはどうしたものかと思ったけれど、放っておくと自分で機嫌を直してくれることがわかり、それが一番いいらしい。
俺も尚紀のことを知っているつもりで知らないことだらけだったと思わされる。
ふたりで考えて、ふたりで出していく答えは幸せに満ちていた。
爆発して三十分後には尚紀は機嫌を直して俺のそばにくっついて甘えている。
こんな感じだ。
……けれど、どっしり構えていると、そのうちとんでもない爆弾を落とされるんじゃないかとどきどきしていることに、尚紀は気付いているだろうか。
突然、『もう嫌!』とか言って出て行かれたらどうしよう。
今日もひやひやどきどきが止まらない。
END
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