囲いの中で

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「尚紀」 「うん」 いつもどおり衛介のスマホチェック。 やましいことなんてなにもない。 …昨日の検索履歴は消したし。 「尚紀、これなに」 「えっ」 消したし…消したよな!? 「『検索履歴の消し方』って検索してるけど」 「!!」 「どういうことだ? なにか隠してる?」 どうしようどうしようどうしよう。 まさかそれを消し忘れるなんて…俺の馬鹿! でもこういう興味って正直に言っていいのかな。 これまでに経験がないからわからないし、恥ずかしい! 「…いや、なにも?」 とりあえずごまかそう。 証拠なんてなにもないんだから。 「『男同士 セックス』、『男同士 セックスの仕方』……なんだこれ」 「!?!?」 「なに? なんでこんなこと調べてるんだ?」 「あの……」 「まさか誰かに誘われたとか、好きな男ができたとかじゃないだろうな?」 どうしよう…。 正直に言ったら、それも怒られそう。 世間のみなさんはこういうとき、どうやって切り抜けるの!? 「俺、もう寝…ひっ」 立ち上がって部屋に逃げようとしたら、足首を掴まれた。 「逃げるな」 目が怖い。 ぶんぶんと足を振ってみてもがっしり掴まれていて離してくれない。 「座れ」 嫌だ、怖い。 怒られる。 逃げたい。 「座れ」 もう一度言われて、恐る恐る座る。 顎を掴まれて顔を背けられないようにされた状態で詰問が始まる。 「あれはなんだ」 「あの…えっと」 「なんであんなこと検索した?」 「それは…」 「好きな男ができたのか」 「…違う」 「じゃあなんだ」 いや、違わないのか? でも、俺が衛介を好きなのはずっと前からだから、好きな男ができたわけじゃない。 これ、どう答えたらいい…? 「あの…その、ちょっと勉強したくて…」 「なんのために」 「それは…」 オナニーのためなんて言えない!! どうしよう…。 俺が必死で脳みそをフル回転させて言い訳を考えていたら、大きな溜め息が聞こえてきた。 びくびくと衛介を見ると、冷めた目で俺を見ている。 「尚紀」 「は、はい…」 「外出禁止」 「え」 「外出禁止だ」 「学校は?」 「行かなくていい。俺も行かない」 まずい…このままだと大変なことになりそうだ。 「違くて…あの、好きな人ができたわけじゃなくて」 「外出禁止」 「その…ちょっと、色々想像するのに調べただけで…」 「想像? なにを?」 形のいい眉がぴくりと上がる。 怖い…。 「あの…あの…」 「『あの』じゃわからない。はっきり言え」 「……衛介と、セックスするのを想像しました」 言ってしまった…。 嫌われたらどうしよう。 ちらりと様子を伺うと、衛介は目を見開いて固まっている。 「衛介…?」 動かない。 この隙に部屋に戻ろう。 と思ったら手首を掴まれた。 そう簡単にはいかないらしい。 「……」 「衛介?」 「………」 「どうしたの?」 「…………」 なに? この無言はどういう意味? 「……どういう想像をした?」 「えっ」 「想像したことを言え」 「やだよ!」 そういう罰!? 恥ずかし過ぎて口になんてできない。 今度は手をぶんぶん振って離してもらおうとするけれど、やっぱりがっしり掴まれていて離してくれない。 「逃げたら外出禁止だ」 「ひっ」 頬をぎゅっと掴まれて、潰される。 「やめへ」 「離して欲しければ言え」 「……」 もう、言うしかないのか…。 「いうから、はらひへ」 「言え」 離して、が通じたようでぱっと手が離される。 「……衛介に、えっちなこといっぱいされるの想像した」 「“えっちなこと”じゃわからない。詳しく言え」 「詳しくって言われたって…よく知らないし…」 「あんなにスマホで検索してたんだ。知らないことないだろう」 ぎゅっと目を瞑って、もう知らないと思って口を開く。 「……いっぱいキスされたり、触られたり…指とか、…衛介の、挿れてもらうの想像した…」 声がどんどん震えて小さくなっていく。 目を開けられない。 衛介がどんな顔をしているか知るのが怖い。 泣きそう…。 ちゅっ 目尻に溜まった涙を吸われる感覚にびっくりして目を開ける。 真剣な瞳をした衛介が正面から俺を見ている。 「……衛介?」 「……………誕生日プレゼント、期待してろ」 「? うん」 それだけ言うと衛介は部屋に戻ってしまった。 俺より先に部屋に戻るなんて珍しい。 じゃあ俺は少しリビングにいようかな。 「あれ」 スマホがない。 衛介が持っていったのかな。 特に急ぎで使うこともないからいいけど。 ていうかなんで消した履歴を見れたんだろう。 衛介はなにをして履歴を復活させたんだ…? しばらく考えてみてもわかるはずがなく、首を何度も捻っていたら眠たくなってきた。 部屋に戻らないと。 そう思うのに身体が動かなくて、うとうとしてしまった。 「…?」 「起きたか」 「えいすけ…?」 目を開けると俺の部屋だった。 ベッドの横に衛介が座ってスマホをいじっている。 「ごめん…俺、寝てた?」 「ああ。抱き上げても起きないくらいしっかり寝てた」 「運んでくれたんだ…ありがとう」 見ると衛介がいじってるのは俺のスマホ。 「なにしてるの?」 「別に」 「じゃあ返して」 「ほら」 スマホが返ってきたのでそのままベッドサイドに置く。 衛介が髪を撫でてくれるので目を閉じると、前髪を避けて額に柔らかいものが触れた。 「…衛介?」 「よく眠れるように」 「小さいときもよくやってくれたね」 今考えると随分大人びたことをする子どもだなぁと思うけど、衛介ならおかしくない。 むしろ王子様のキスのようだ。 「……衛介」 「なに」 「俺がエロいこと考えてたの知って、幻滅した?」 「遅い第二次性徴期だろ」 「だいにじせいちょうき…」 「もう寝ろ。おやすみ、尚紀」 「おやすみ…」 こうやっていつも俺は衛介に守られてきたんだな…。
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