囲いの中で

1/4
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

囲いの中で

俺は箱入りっていうか、幼馴染の作った囲いの中で生きてきた。 箱に詰められていると表現するのが正しいかもしれない。 異常なまでに俺を可愛がり、俺を好きだと言う幼馴染…椎名(しいな)衛介(えいすけ)。 衛介のおかげで俺は世間をよく知らずに大学生になってしまった。 友達もいない。 尚紀(なおき)には自分だけいればいいといつも衛介が言うからそういうものだと思っている。 俺には衛介の言うことが普通。 「椎名くんって、かっこいいのにいつも小井(こい)くんと一緒だよね」 そうなんだよ。 離れないんだ。 そういうものなんだ。 「尚紀」 「うん」 部屋は当然ルームシェア。 バイトは二十歳になったらしてもいいと言われている。 もちろん、衛介から。 親も『衛介くんがそばにいてくれれば安心』と衛介を信頼しきっている。 確かに俺はちょっと抜けてるところがあるのは自覚している。 スマホを差し出すと、慣れた手つきでパスコードを入力する衛介。 これは一日の終わりの恒例、スマホチェック。 誰かと連絡先を交換したり、連絡を取っていないかの確認。 別に隠すことなんてない。 パスコードも教えてあるから、俺のスマホは衛介が見て当然のもの。 「うん。大丈夫」 「そりゃ、べったり衛介がそばにいるのに誰かと連絡先の交換なんてしたら、その場でわかるだろ」 「それでもちゃんとチェックしておかないとな」 「心配性だな」 本当に俺のことばっかり考えてる。 まあ、俺が好きで彼女作る気が全くないのは知ってるから深く色々言わないけど。 俺だって衛介が好きだから、衛介に彼女ができたら悲しいし。 「おいで」 ぽんぽんと衛介の隣を示されるのでそこに移動すると、軽く抱き締められた。 「可愛い尚紀。俺が守ってやらないと、この世は危険がいっぱいだ」 「ほんと、心配し過ぎ」 「尚紀が可愛過ぎるから、どんなに心配しても足りないんだよ」 可愛い…ね。 「シャワー浴びてきな」 「うん」 脱衣室の洗面台にある鏡を見て首を傾げる。 俺は世間知らずだけど、自分が可愛くないのは知ってる。 可愛くないどころか、平凡で地味。 かっこいい衛介と並ぶとなんか…すごく……なんとも言えない気持ちになる。 衛介は見慣れないほどかっこいい。 幼稚園のときからずっとそばで見ているけど、いつまでもどこまでもかっこいい。 俺がそばにくっついていかったら、あっと言う間に人気者になるだろう。 でも本人はそうなりたいと願っていない。 俺のそばにいられればそれでいい、らしい。 こうなったきっかけは小学生のとき、俺がぼけっとしていて誘拐されそうになったから。 すぐに気が付いた衛介が親を呼んでくれて事なきを得たけれど、それから衛介の箱詰めは始まった。 俺はぼーっとしていたから特になにも感じていなかったんだけど、たぶん衛介にはすごい恐怖だったんだろう。 「衛介、シャワー交代」 「ああ。尚紀」 「誰か来ても絶対出ないよ」 「気を付けろよ」 「うん」 本当は一緒にシャワーを浴びたいらしいけど、さすがに恥ずかしい。 スマホをいじりながらカレンダーを見る。 あと二週間で俺の二十歳の誕生日だ。 衛介には絶対当日予定を入れないようにと言われているけれど、言われなくたって予定なんて入りっこない。 五月に先に二十歳になっている衛介と、初めての酒を飲んでみようという話になっている。 俺、あんま飲めないだろうな。 両親も弱いし、俺も弱そう。 でも、衛介とふたりなら大丈夫だろう。 …なんだかんだで俺も衛介に頼りっきりなんだよな。 「尚紀、なにしてるんだ」 「え、あ…ちょっとイメトレ」 「なんの?」 「初めての酒」 シャワーから戻った衛介に適当なことを言ってしまった。 いや、そんなに間違ってないか? 「酒を飲める年になっても、尚紀は俺の前以外では飲まないこと」 「うん、わかってる」 「それならいいけど」 心配性がまた出てきた。 俺の隣に座った衛介がスマホをいじり始めるので、俺はタブレットで動画を再生する。 このタブレットは衛介のものだ。 「…衛介」 「なに」 「俺って世間知らず?」 「そうだな。俺がそう育てた」 「育てたとか言うな」 誤解を招く発言はやめてくれ。 誤解するような人もいないけど。 時々ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ寂しくなる。 友達がいないこと。 衛介がいればそれでいいんだけど、でも衛介が離れていってしまったら俺には誰も残らない。 その恐怖もある。 「衛介…」 「なに」 「…結婚しないでね」 「っ!? ごほっ…」 麦茶でむせてるので背中をさすってあげると、涙目で俺を見る衛介はとても色っぽくて…。 「お、俺…もう寝る!」 「早くない?」 「寝るから寝る」 いつもリビングでばかり過ごしているけれど、俺と衛介の部屋はちゃんとある。 寝るときはさすがに別々に寝ている。 衛介が夜中に俺の様子を見に来ているのは知ってるけど。 「おやすみ、衛介」 「おやすみ」 自室に移動する。 すぐにベッドに入ってどきどきが収まるのを待つ。 あんな顔を見せられたら色々むくむくしてきてしまう。 衛介には言えないけど、俺はエロいことに興味津々。 だからひとりで収める。 下着の中に手を入れてすでに昂っているものに触れると、思った以上に熱い吐息が漏れた。 少し力を入れて扱くとすぐに昇り詰めていく。 想像するのは衛介。 なぜか俺の性欲は衛介でしか解消できない。 これだけそばにくっついていて、箱詰めにされていればそういうものになってしまうのかもしれない。 俺がエロ動画なんて見ようものなら発狂するだろうし。 だから安全なところで衛介、ということになったのかもしれない…無意識の中で。 「ん…っ、はぁっ」 衛介のはどんな形をしてるんだろう。 衛介は、どんな風に女を抱くんだろう。 ……それが俺だったら…? 「!?」 自分の想像にはっとする。 衛介が抱くのが俺だったら…? なに考えてるんだ。 あぶない。 でも。 「……」 なんかすごく…興奮する、かも。 衛介に抱かれることを想像してみる。 けど、いまいちリアルさに欠けてしまう。 スマホを出す。 男同士のセックスの仕方を検索して、検索履歴の消し方を検索する。 調べるとすごい未知の世界で、脳内がどんどんそれ一色になっていく。 うわあ、うわあああ…と思いながら、衛介に抱かれる想像がリアルなものになっていって、昂りは痛いくらいに張り詰める。 検索履歴を消して、もう一度昂りに触れた。 衛介の指で恥ずかしいところをほぐされて、衛介が挿入ってきて。 ふたりで気持ちよくなったら………。 「…ぅ……っ」 あっという間に限界に達した。 恥ずかしい。 そして我に返る。 なんてことを想像してしまったんだ…。 衛介と……衛介に……うわあ! でも気持ちよさそうな顔をしている衛介を想像したのはなかなかすごい…リアルで。 また昂りが熱を持つ。 いけない道に踏み込んだ気がした。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!