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事件は七日目に起った。
上司に指示を仰いでいたら、腹に違和感を覚えた。初めはひりひりするだけだったが、だんだんと痛みが強まってゆく。ゴムでバチバチと弾かれているみたいだ。しかも、かなり熱い。
「うっ」
トドメの一撃で、俺は床にうずくまった。上司が隣にひざまづく。
「田本くん、大丈夫?!」
「腹が痛くて……すみませんが、今日は早退させてください」
ジャケットを脱いでも痛みは引かなかった。軽いやけどを負ったらしい。ポケットに外から触れてみると、左右どちらも熱を帯びていた。それに、ちょっと煙臭い。布自体が焦げたり、破けたりしたわけではなさそうだが。
自室でポケットを覗き、驚いた。右だけでなく、左のポケットにも国ができていたのだ。
だが、どちらもひどい有様だった。立派な街は廃墟となり、至るところに火の手が上がっている。恐ろしげな黒い粒が飛び回り、お互いの都市に爆弾を落としていた。
「両首脳、今すぐ出てこい。話したいことがある」
俺の呼びかけで、二人の指導者が坐卓に揃った。ちっぽけな核弾頭もそれぞれ引っ張ってきた。彼らの背後で、今か今かと発射を待っている。
「一体、何があったんだ」
まずは、右ポケットの皇帝が答えた。
「大デクステル帝国は、隣国、スィニステル連邦と戦争をしておるのである。先に手を出したのは、スィニステルである。彼らは我が国で爆破テロを繰り返しておった。朕はその報復として、軍事基地を爆撃したまでである」
「こんな独裁者の言うことを、信じてはなりません」
左ポケットの大統領が言った。声から察するに、まだ若いようだ。
「爆破テロは、デクステル側の自作自演です。デクステルは我々の建国する以前から、領土を拡げようと企んでいました。そこで彼らは、ありもしないテロをでっち上げて、我が国への侵攻を正当化しようとしているのです」
「皇帝陛下、約束したよな。いっぺんでもおかしなことをしたら、このスーツをクリーニングに出すと。あれは脅しじゃない。俺は本気だ」
皇帝はうろたえた。
「ち、朕は悪い戦争はしておらぬ。先に手を出してきたのは向こうであって……」
俺はとんかちを振りかぶった。
ぐしゃり。
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