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今夜は酔わせて
「ああ。食ったけど?」
年上の幼馴染に食われた。
「な、なんで…? 颯真って男が好きなの…?」
「男か女かって聞かれたら瑛士が好き」
「俺って新しい性別?」
「そうじゃねえよ。おまえが好きだって言ってんの」
馬鹿だな、って髪をくしゃくしゃされる。
いや…え?
「いつから?」
「小さい頃から」
「それっていつ」
「俺が小学校二年になったときには好きだったな」
颯真が小二ってことは俺まだ幼稚園じゃん。
「なんで?」
「可愛いから。いつも俺の後ついて歩いて、こんな可愛い生き物がいるのかと思った」
「…可愛い…」
俺は地味だとはよく言われる。可愛いなんて初めて言われた。颯真だってそんなこと、一言も言ったことない。
ふたり、裸でベッドにいてもまだ信じられない。でも肌に散ったキスマークが現実だと教えてくれる。
「だからってなんで…」
「酔ったおまえが『寂しい』って言うから食ったんだろうが」
「『寂しい』は『食って』じゃない」
「瑛士が言ったら俺には同じ意味だ」
なんだそれ。
そもそも颯真が俺をそんな目で見てるって知ってたら、無防備なことはしなかった。ああ、なんで昨夜の俺は気付かなかったんだろう…。『寂しい』だって、たぶん酔いでひとりが寂しくなっただけじゃないか。
昨日、仕事が休みの俺に飲みに行こうと颯真が誘ってきた。土曜日で颯真も休みだったから。
颯真は会社員、俺は居酒屋社員で違う職種だけど、ときどき休みが合う。
休みには俺の都合お構いなしに『飯食いに行こう』とか『遊び行こう』とか、俺のところに連絡をしてくる颯真の誘いを仕事だからと断ってばかりだから、たまには飲みに行こうと誘いを受けた。休みが合わなければいつものように断っていた。昨日の俺はなんで休みだったんだ…。
居内颯真、二十八歳。
黒髪に少しつり目な真っ黒い瞳。すっと通った鼻筋も唇と顎のラインも美しい。
高身長、スタイルよし。
みんなが振り返るほどの整った顔立ちを持ちながら趣味は悪かったらしい。俺が好きとか……どうりで彼女ができたという話を一度も聞いたことがないはずだ。
ちらりと颯真を見る。
「なに見てんだ。また抱くぞ」
「遠慮します…」
無理。
と思ってたら腰に颯真の腕が回って抱き寄せられた。肌と肌が触れ合って、おかしな気分になる。俺だって彼女ができたことないんだから、こういう密着には慣れてない。
「あー可愛い。俺がなんかする度にびくびく身体震わせんの最高」
「悪かったな、慣れてなくて」
「ていうか初めてだろ。初めてだと言え」
「………初めてだよ」
恥ずかしい。なにもかも初めてだ。キスだって……あれ。
「颯真、キスした?」
「してねえな」
「なんで?」
「したいならしてやる」
顔を近付けてくるので押し返す。
「したくない! 颯真だって初めてのくせになんでそんな余裕なの!?」
「そりゃ好きな奴の前では余裕あるとこ見せたいだろ」
「………」
顔が熱くなってしまった。そんな言い方、俺にめちゃくちゃ惚れてるみたいじゃん。
「キスは瑛士が俺を好きになったら、だな」
「じゃあずっとしないね」
「なに言ってんだ。絶対落とすに決まってんだろ」
颯真が俺の目を覗き込んで。
「覚悟しろ」
そんな覚悟、したくない。
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