今夜は酔わせて

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◇◆◇◆◇ 「うまいな、蟹」 「………」 次の休み。 なんと颯真が有給を取って俺と休みを合わせてふたりで会っていた。 「うまくねえ?」 「……おいしい」 「素直でほんと可愛いな。ここでするか」 「しないよ!」 静かな雰囲気の蟹料亭の個室でふたりで蟹を食べている。だって蟹でおごりって言われたら来ちゃうじゃん。 …颯真と一緒に食事するときに、俺が少しでもお金を出せたことなんて一度もないけど。いつも気が付くと支払いが済まされている。スマート過ぎて、かっこいいんだけど…なんか悔しい。 「……颯真って慣れてるよね」 「セックスはこの前が初めてだ」 「そういう話じゃない」 「じゃあなんだ」 「なんか…大人って感じ」 俺の言葉に颯真がきょとんとする。なんだろう。 「今まで子どもだと思ってたのか」 「思ってないけど…」 「俺は瑛士がまだ子どもだと思ってたから我慢してたけどな」 「え、そうなの? じゃあなんで我慢し続けてくれなかったの?」 「なんでって……臨界点突破?」 蟹足のむき身を鍋に入れた颯真が真剣に言う。 個室で蟹しゃぶ。しかも生け簀の活ずわいで。二杯も注文した。メニューには『活ずわい 時価』としか書かれていない。絶対高い。『こちらの蟹を調理させていただきます』と店員さんが見せてくれた蟹、大きかったし。 でもめちゃくちゃおいしい。むき身だから食べやすいのも最高。足二本ずつは洗いにしてもらったけど、それもすごくおいしかった。 「瑛士が可愛過ぎて我慢なんてできなかったんだよ」 「………」 そんな優しい表情で言わないでよ…。どきどきしちゃうじゃん。 「ちなみに瑛士だって合意だったからな」 「え、嘘」 「『抱くぞ』って言ったら『俺でいいの?』って言った」 「それ合意なの?」 「合意だろ。好きな相手にそんなこと言われたら理性保ってられるわけねえよ」 俺が悪かったみたいな言い方じゃん。でも確かにあの日、俺は飲み過ぎた。颯真が一緒で安心してたんだろうな。で、気が付いたら裸でベッド…と。 「ほら」 「…ありがとう」 颯真がとんすいに野菜と蟹をよそってくれるので、受け取る。ほんと、蟹おいしい。 …はっ! 「……まさか食べ物でつろうとか」 「してるな。おまえは昔からうまいものに弱い」 「………」 事実だからなにも返せない。でもそんな簡単にはいかない…いかせない。 「だけど、好きになるかどうかは別じゃん?」 俺の言葉に颯真がにやりと笑う。 「いや? 瑛士は前から俺が好きだから全然別じゃない」 「っ…」 「もっと好きにさせるから、覚悟しとけ」 確かに颯真に憧れてたし好きだけど、そういう好きじゃなくて……! …颯真が好き? 違う…違う…! …おかしい。どきどきする。 俺、単純過ぎないか。 むむむむ…と考え込んでいたら店員さんが活ずわいの蟹味噌を運んできてくれて、まあいいかってなった。 「日本酒飲むか?」 「飲む! 蟹味噌にめちゃくちゃ合いそう」 これがまずかった。
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