74人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
◇◆◇◆◇
“今度”はなかった。
颯真から連絡はない。だからこっちから連絡してみたら、既読にすらならない。あの日から二週間が経っていた。
「日比野さん、休憩入ってください」
「ありがとうございます」
休憩室でスマホを見て溜め息。なんで急にあんな風になってしまったんだろう。俺の言い方が悪かった?
「……颯真の馬鹿」
わけわかんない。胸が苦しいのもわけわかんない。
「…はぁ」
また溜め息が出てしまった。
財布にはあの日のタクシー代の残りが入っている。それを渡すという口実で会いに行こうか。でも会ってくれなそうだ。だからってこのままじゃ、ほんとに颯真との繋がりが切れてしまう。
「…俺が好きなんじゃなかったの…」
それほど好きじゃなかったとか? 俺がなにか間違えたのかな。でもなにを?
……わからない。
付き合ってもいいって言ったら急に様子がおかしくなった。やっぱり俺のこと、そんなに好きじゃなかったんだ…。
「…なんだよ」
俺、しっかり颯真のこと好きじゃん。だってこんなにショック受けてる。
「どうした、日比野」
「料理長…休憩ですか?」
「そう。なんかあったか」
なんかって言うか…なんかなんだよな。あったけど、それを料理長には言えない。
「いえ、ちょっと…今日は落ち着いてるなと思って」
「そうだな。もっとガンガンオーダーとってこいよ」
「無茶言わないでください」
お客さまがそんなに多くないんだから、それは難しい。
「あ、そろそろ俺戻りますね」
「ああ」
休憩室を出て更衣室にスマホを戻す。ひとつ溜め息を吐いてから担当エリアに戻った。
ガンガンオーダーとってこいって言われたけど、やっぱりそんなにとれずに閉店時間になってしまった。閉店後の片付けをして店を出ると、料理長やキッチンの社員さんと一緒になった。
「日比野もよかったら一緒にくるか?」
「どこにですか?」
「俺んち。これからみんなで飲もうって話になって」
料理長のところ。楽しそうだな。
「行ってもいいですか?」
「いいよ、来い。店長も誘うか」
颯真のことで頭がいっぱいなのをなんとかしたい。少しの間でも別のことを考えられたら楽なんだろうなと思ってついて行った。
最初のコメントを投稿しよう!