邪念のあの子

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「お疲れさまです、宏武さん!」 「ほんとにきたんだ…」 「行くって言ったじゃないですか!」 あの後、何度かメッセージをやり取りしてバイト先を教えた。俺がバイトを終えて店を出ると、店の前に亮大くんが立っている。私服だ。大きなバッグを持っている。 「高校生が出歩く時間じゃないでしょ」 「だって心配なんですもん…」 この拗ねた顔、めちゃくちゃ可愛い。これ女子にやったら一発で落ちる。 でも亮大くんが落としたいのは俺なんだよな。 「宏武さんはどこに住んでるんですか?」 「〇〇駅」 「俺は〇△駅です…遠い」 二駅先…じゃあ朝の電車は俺のほうが先に乗っているのか。 「あの、あの、今日友達のところに泊まるって言ってきたんです!」 「だめだよ」 「ええっ!?」 「泊める気ないし、むしろ俺が亮大くんを家まで送って行かないといけないから」 「そんなぁ…」 しゅんとしてしまった。 でも高校生がこんな遅い時間にひとりで歩くのはあぶない。なにかあったら大変だ。 「送ってもらうの悪いので……泊めてください」 「泊めてもらうほうが悪いって思わないの?」 「だって一緒にいたい…」 「俺は身の危険を感じるよ」 「えっ」 ぽそっと言った言葉に亮大くんが反応する。 「俺を意識してくれてるんですか!?」 「そうじゃない」 …はず。 そういう言い方をされると、もしかして?と思ってしまう単純な俺。 「そっかぁ、じゃあしょうがないなぁ…」 違うって言ってるのに、亮大くんはご機嫌になった。軽い足取りで隣を歩いている。 「ねえ、宏武さん」 「なに?」 「好きです」 「っ!?」 「真っ赤になってる。可愛い」 亮大くんが俺の頬を撫でるから、慌てて顔を背ける。 「からかうな」 「からかってないですよ?」 ふふ、と笑うから、やっぱりからかってるんだ。高校生にからかわれる大学生って…。 電車に揺られて〇△駅で降りようとしたら、肝心の亮大くんが座席に座ったまま。 「亮大くん?」 「降りたくない」 「帰るんだよ」 「俺が降りるのは〇〇駅」 「………」 言い出したら聞かないタイプ? ここで手を引っ張って無理矢理降ろしたら見世物だ。そんなに目立ちたくない。俺はもともと目立つことに慣れていない。 「……今日だけだからな」 ぱっと笑顔になって腕を組んでくる亮大くんの手を避けたら、また拗ねた。
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