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邪念のあの子
「好きです!」
突然の告白。
「………はい?」
「好きです!」
「いや、それは聞こえたんだけど…」
「俺は佐久間亮大です。山本宏武さん、ずっと好きでした!」
なんで俺の名前知っているんだろう。
高校の制服を着た、俺より少し背の高い男の子。
「ずっとって…?」
「いつもこの電車乗りますよね? 俺も同じで…山本さんが以前パスケースを落としたのを俺が拾ってあげたの、覚えてませんか?」
「ああ…」
そんなこともあったっけ。それがなんで好きに繋がる?
「『ありがとう』って笑ってくれた顔がめちゃくちゃ素敵で一目惚れしちゃって…。でも俺、山本さんより背が低かったのにちょっと引け目感じて……山本さんの身長を超えたら告白しようって思ってたんです!」
「背…」
確かに今、俺は彼…佐久間くん?を少し見上げる格好だ。パスケースを落としたのって俺が大学入ってすぐだったから、一年は前だ。そんなに前から俺を好きだったってことか。
しかし…。
「佐久間くん…」
「亮大と呼んでください!」
「…亮大くん」
「はい」
「モテるでしょ」
「……」
「きみと俺じゃつり合わないし、男同士だよ?」
亮大くんは整った顔立ちで美形。俺はどこからどう見ても平凡。つり合わない。
「……男同士でもいいじゃないですか。宏武さんが好きなんですよ…」
ちょっと拗ねた口調。可愛い…。
しかも、いつの間にか名前呼びしているし。
「亮大くん、いくつ?」
「十七歳、高三です」
「受験だね」
これから忙しくなる時期じゃないか。
「宏武さんと同じ大学受けるんです」
亮大くんはにこにこしながら言う。
「なんで俺の大学知ってるの?」
「後つけました」
「………」
そんなはっきり…。
どうしようかな。こういうときの断り方ってわからない。そもそも告白された経験がない。
「ああっ! 断らないでください!」
「えっ」
「今、断ろうとしたでしょ!?」
「うん」
「はっきり言わないでくださいよ!」
泣き出しそうな顔。ころころ表情が変わって面白い。
本当にどうしよう。
「とりあえず、今日はもう学校行かないといけないから。気持ちは…嬉しい」
「じゃあ、付き合ってくれますか!?」
ぱっと笑顔になる。
「それはまた話が別」
「………」
むすっとしてる。
「じゃあ、帰りに時間作ってください」
「バイトあるから」
「バイトの後でいいです」
「夜遅いから高校生が出歩いたらあぶないよ」
「そんな時間まで働いてるんですか!? 夜道でなにかあったらどうするんですか!!」
ぐわっと迫ってくるので後ずさる。そう言われても、俺なんかを襲う人なんていない。
「どこでバイトしてるんですか?」
「隣の駅のレストラン。十時閉店」
「……迎えに行きます」
「え」
「行きます! 宏武さん、連絡先教えてください!」
亮大くんがスマホを出すので、俺も仕方なくスマホを出す。迎えって言われてもなぁと思いながら連絡先を交換。亮大くんはスマホを見てにこにこしている。
「宏武さんと連絡がとれる…」
「亮大くんが教えてって言ったんでしょ」
「そうですけど!」
もう…と言うから、もうってなに?と思いながら別れる。亮大くんは乗り換え路線のホームに向かっている。
周りの目を引く男の子は、ちらちらと俺を振り返っては人にぶつかりそうになっていた。
そういう俺も、振り返ってばかりでぶつかりそうになっていたけど。
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