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◇◆◇◆◇
とある日曜日。
謙志さんのお仕事が休みで、俺が隣にお邪魔して持参したノートパソコンでレポートを片付けて。
ふたりで夕飯の買い物に出かけた帰りにドラッグストアの前を通った。
そうしたら謙志さんが俺を見ていきなり。
「買ってく?」
? なにを?
疑問符を浮かべていると、謙志さんが俺の耳元に顔を近付けて囁く。
「コンドーム」
「!?!?」
卒倒するかと思った。
コ、コンドームって言った…? それ買ってなにするの? まさか膨らませるわけじゃないよね?
「だって若葉くん、したいんでしょ?」
「で、でも謙志さんは…っ」
抱かないって…。
謙志さんがまっすぐ俺を見る。
「俺、若葉くんがすごく大切」
「はい」
「抱きたい気持ちはある」
「……」
「だけど、抱かなくても幸せ」
つまり?
謙志さんを見上げる。
「若葉くんが選んでいいよ」
…そんなの、選べない。俺だってどっちでもいい。前は抱いてほしくてもやもやしていたけれど、謙志さんが俺を抱かなくても幸せっていうのがちょっとわかったから、今のままで幸せだし…。抱かれても幸せだろうけど、無理にそれを求めたいとは思わなくなった。
「若葉くんはどうしたい?」
「………」
どうしたい?
…どうしたい……。
謙志さんを見ると、微笑んで俺を見ている。笑顔が眩しくて心が溶けてしまいそう。
ぐるぐる考えてから、どきどきしながら謙志さんの服の袖を引き、耳元に顔を近付ける。
「………買ってください」
勇気を出して答えた。
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