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のはいいけど。
食事の味がわからない…!
「大丈夫?」
「…大丈夫です」
「全然大丈夫そうじゃないよ?」
「大丈夫すぎてそう見えるだけです」
わけのわからないことを言う俺を謙志さんは笑って見ている。
和風ハンバーグを食べながらこの後のことを考える。この後…この後は、いつもどおりお風呂を借りて、髪を乾かしてもらって……でも、そこからはいつもどおりじゃなくて………。
「今度は真っ赤だね。なに考えてるの?」
「なにも考えてませんっ!」
どうしよう…どうしよう。
嫌じゃないけど緊張する。謙志さんと…謙志さんと……!!
「はい。あーん」
口元に一口大のハンバーグが差し出された。
「?」
「あーん」
「自分で食べられますよ?」
「いいから」
よくわからないけれど口を開けると、口の中にそっとハンバーグが運ばれる。おいしい。自分で食べると味がわからないのに、謙志さんに食べさせてもらうとしっかり味がして、すごくおいしい。
「おいしい?」
「はい…」
「よかった」
嬉しそう。
謙志さんに食べさせてもらった後は不思議と自分で食べても味がわかって、緊張も少し解けていた。すごい。謙志さんって魔法使い?
「ごちそうさまでした」
片付けを手伝おうとしたら、お風呂入っておいでと言われてしまった。また心臓が高鳴り始める。
「可愛いね。本当にしまっておきたい」
「!」
前にもそう言っていたけど、なにか…まるで宝物でも見つめるような瞳で俺を見るから、恥ずかしくなって浴室に逃げ込む。心臓がばくばく言っている。また緊張が蘇って、ちょっと指先が震えてきた。服を脱いでゆっくりシャワーを浴びる。念入りに身体を洗ってお風呂に浸かって深呼吸。お風呂にはさっと浸かっただけですぐ上がった。ただでさえ顔が熱いから、あまり浸かるとのぼせてしまいそう。
「若葉くん?」
身体を拭いていたら脱衣室の外から声をかけられた。
「はっ…い!?」
なんだろう!?
「大丈夫? 時間かかってるけど、具合悪い?」
「だ、大丈夫ですっ!」
「そう?」
「はいっ」
心配かけちゃった…。そんなに時間かけてたんだ。洗面台に置いてある時計を見たら、浴室に入ってから三十分も経ってる…!! そりゃ心配もするよ…。いつもは長くても十五分くらいだから倍だ。
慌ててリビングダイニングに戻ると、謙志さんがほっとした顔を見せた。
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