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昼はゼリー飲料。以前謙志さんから、自分が不在のときにはお弁当を作ろうかと聞かれたけれど丁重にお断りした。それはさすがに申し訳なさ過ぎる。
パソコンに向かってしばらくカタカタやっていたら午後三時になっていた。謙志さんは帰ってきたのかな、なんて考えながらベッドに横になる。ぼんやりと謙志さんのことを考える。
俺を持って行きたいって言っていた。たぶん冗談。
どの角度から見ても魅力的って言っていた。これもきっと冗談。
お腹空かせておいてねって言っていた。これは本当だろう。
というわけで腹筋をやってみる。腹筋をしながらやっぱり謙志さんのことを考える。優しい人。素敵な人。でも、惹かれたくない人。
「………」
本当に、惹かれずにいられる?
難しい。
すでに謙志さんのことばかり考えているし、謙志さんのことを考えると心臓が勝手に高鳴る。こんなの絶対だめなのに。
夜、謙志さんが迎えに来てくれた。
「お待たせ。ちょっと遅くなっちゃった、ごめんね」
「いえ、大丈夫です」
もやもやと考える。優しすぎるのも罪だ。
今日はサバの味噌煮。ふたりでいただきますをして箸を持つ。
「あの、謙志さん…」
「なに?」
言いづらいけど。
「こうやって食事をするの、回数を減らしたいなと思って……その」
「だめ」
きっぱりと強い声。気付かず俯いていた顔を上げると、謙志さんが怖い顔をしている。
「そうやってまたカップ麺とかばっかり食べるつもりでしょ」
「いえ、違うんです。あの…」
あの、なんだ。なにを続ければいい。惚れそうだから、惹かれそうだから、距離を置きたい。それをはっきり言ったらそこで全てが終わる。
「だめだよ。そんな食生活していたらいつか倒れちゃう。若葉くんになにかあったら俺、どうしたらいいの?」
「どうしたらって……」
「ねえ、若葉くん。好きな子とふたりでご飯を食べられるのはすごく幸せなんだよ? それを俺から奪わないで」
「はあ…」
だめか。好きな子とふたりでって…好きな子? 誰が?
「謙志さん…好きな子って…?」
「え、この状況で言ったのに、若葉くん以外いる?」
「…俺?」
俺って、俺? 謙志さんにじっと見られて顔が熱くなってくる。
「こんなにはっきり好きって表現してるのに、全然気付いてくれてなかった?」
「だって…俺なんか」
「俺なんかって言わないの」
謙志さんが怖い顔をして見せてから、ふわっと微笑むのでますます顔に熱が集まる。まっすぐ顔を見ていられなくて、視線をうろうろさせてしまう。
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