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「お風呂いれようか」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ、ごゆっくり」
浴室の場所なんてわかるのに、謙志さんはわざわざ案内してくれた。服を脱ぐのにも、すごくどきどきして指先が震えた。そういうことはしないのに好きな人の部屋でシャワーを浴びるって変な感じ。もし勢いで色々されちゃったらどうしよう、とか考えて顔が猛烈に熱くなる。想像力すごいな、俺。
「シャワーありがとうございました」
謙志さんは、待ってましたとドライヤーを出す。
「おいで」
「…はい」
示されたとおりにソファに座る謙志さんの足の間に座り、ちょっと謙志さんを振り返る。
「シャワー上がりの若葉くんって色っぽいね」
「!?」
「ほら、前向いて。乾かすから」
カチッとドライヤーのスイッチが入って、熱風が髪に当てられる。指で梳いて揺らすようにして髪を乾かしてくれて、心地好さにうとうとしてくる。丁寧に髪を乾かしてくれて、ずっとこのままでいたいなぁ、なんて思う。すごく落ち着く。
「はい、おしまい」
「あ」
もう終わっちゃった。
「どうしたの?」
背後から顔を覗き込まれ、顔の近さにわわっとなる。慌てて顔を離そうとしたけれど、後頭部を支えるように手を添えられてしまい離せなかった。
「若葉くん、キスしていい?」
「……聞かないでください」
「聞かないと若葉くんの気持ちがわからないでしょ?」
そっと唇が重なって、心臓がとくん、と言う。なんだかすごくしっくりくる感覚。そうするのがあたりまえのような温もりを感じた。
「……まずい」
唇を離した謙志さんが呟く。
「俺、おいしくないですか?」
思ったことをそのまま聞いてみると、謙志さんは、違うよ、と首を横に振る。
「可愛すぎて我慢できなくなりそうってこと」
額にもキスをされて、そのまま背中から抱き締められる。謙志さんが深呼吸をして、ふー…と大きく息を吐き出す。
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