24人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
夢じゃない
空が青い、高校の卒業式の日。
式の後、幼馴染の航希といつものように話していた。小中高と同じ学校だったけれど、大学は違うところに進むことになった。
「ついに違う学校だな」
俺の呟きに、航希がうーんと伸びをする。
「寂しい? 泰斗は俺がいないとだめだもんな」
なぜだろう、カチンときた。
「全然。せいせいする」
そんな答えを返す。すると航希もむっとした顔をする。
「なに、その言い方」
「先に航希が嫌な言い方したんだろ」
「泰斗のほうが嫌な言い方してる」
そのまま言い合いになり、ケンカになってしまった。
「もういい。泰斗なんて知らない」
振り返らず去って行く航希の背中を見たのが、最後の航希の姿。俺はそれからすぐにひとり暮らしを始めたので、航希とはケンカ別れという形で終わった。
それから俺は航希の夢を見るようになった。楽しくて面白くて笑い合ったこと、辛かったことをふたりで分け合った思い出、悲しかったことをふたりで乗り越えたこと、卒業式の日のこと……様々なことが夢となって現れ、俺は苦しい思いで目を覚ます。時には涙を流しながら。
俺は航希が好きだ。
一言多い航希と、素直じゃない俺はケンカになりやすかったけれど、根本の部分で気が合った。それに航希は根っこが優しい。モテる外見を持っていることを鼻にかけないところとか、勉強も運動もできるのに努力を惜しまない姿勢とか、そういうところを本当に尊敬していたし、かっこいいと思っていた。今もそう思っている。
いつかは好き“だった”になる日がくるんだろうか、と考えながら大学生活を終えて、まだ“だった”にならない。二度と会えない航希だけを追いかけて、街中で似た人影を見つけては振り返る。
……今更会えてもどうにもならないのに、燻る想い。
ずっと幼馴染以上になりたかった。でも、できなかった。それ以上を求める勇気がなかった。怖かった。それでも、卒業式の後に勇気を出して告白するつもりだったのに…。
今はもう、顔を見ることもできない。
あの日に戻れたら…もう一度あの日をやり直せたら……。
そんな意味のないことを考えてしまうくらい航希にまだ恋をしている。繰り返し夢に見る航希の微笑みは擦り切れず、いつまでも俺の心を締め付ける。
もう一度、名前を呼んでもらいたい。
もう一度、会いたい。
―――会いたい。
最初のコメントを投稿しよう!