ずるい男

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「どうぞ」 「お邪魔します……」 今埜くんの部屋に到着。「うちに来ませんか?」と言われて来てしまった。あの夜以来……緊張する。 「適当に座ってください」 「うん……」 とりあえずローテーブルのそばに座る。目を逸らすのに、どうしても視線がベッドを捉えてしまう。やっぱり、そういうことだよな……。どきどきしながらラグをつついてみる。 「どうぞ」 「わっ」 「えっ」 ローテーブルにお茶が置かれただけなのに変な声を上げてしまう。今埜くんもびっくりしている。 「……もしかして、緊張してます?」 「……」 素直に頷く。 「なにもしませんよ」 「え、なにもしないの?」 あ……。 「ご、ごめん! 聞かなかったことにして……」 恥ずかしい……。これじゃ期待してるみたいだ。いや、確かにちょっと――じゃなくて結構、期待してたけど。でも、今埜くんがその気じゃないのに俺だけその気だったなんて、恥ずかしすぎる……! ……けど、全然その気になってくれないのかな? と、じっと今埜くんを見る。 「……羽田さん、可愛い。初めて会ったときから、そうやってまっすぐ俺を見つめてくれる」 「初めて会ったとき?」 今埜くんが頷く。 「俺、あの日彼女の浮気が原因で別れて、ふらふらっとあのバーに入ったんです。バーで目が合ったときの羽田さん、すごくなにかを期待した目をしていました。こんな俺になにかを期待してくれたことにどきどきして、囲まれて困っていたのもあったけど、つい声をかけちゃって……」 期待……あのときのことを思い出す。確か、シンデレラストーリーを思い浮かべていた。そうか、期待するような目をしていたんだ……。それも恥ずかしい。 「一緒に飲んでいても警戒心はないし、絶対年上なのにすごく可愛いし。恋人いないって言うから羽田さんをお持ち帰りしたくて、どんどん飲んでいくのを止めなかったこと……ごめんなさい」 「なるほど。今埜くんが前に言っていた、『ずるいところがある』はそういうこと?」 「……そうです」 少し頬を赤くして、今度は今埜くんが俺をまっすぐ見つめるから、恥ずかしくなって目を逸らす。そうしたら首をすり、と指で撫でられてぞくっとした。 「好きです、羽田さん。仕事中の格好いい羽田さんも、それ以外のときの可愛い羽田さんも、丸ごと好きです」 「――んっ」 甘い言葉に蕩けるキス。身体の形もわからなくなりそう。舌先で歯列をなぞられて力を抜くと、舌が口内に滑り込んでくる。舌と舌が擦り合わされるとぞくぞくしてしまう。 「ぁ……まって……」 「羽田さん?」 軽く今埜くんの胸を押すと、唇が離れる。大丈夫だとは思うけど、確認しておかないと。 「俺、今埜くんより十歳も年上なんだけど、大丈夫?」 「大人の魅力ですね。羽田さんはいくつ上でも素敵です」 「嫌じゃない?」 「そんなことを気にしちゃう羽田さんも可愛いと思いますよ」 そんなこと? そんなことなんだ……よかった。 「で、いいですか?」 「え?」 「『待て』、解除してください」 「……」 “待て”って……。思わず笑ってしまう。 「笑ってないで、早くしてください」 いい子だな、ほんとに。 今埜くんの首に手を回して、耳元に顔を近づける。 「来て」 「っ……ずるすぎます!」 軽々と抱き上げられて、ベッドに運ばれた。
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