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緊張する。面接をしていてこんなに緊張するのは初めてだ。どちらが面接官かわからない。声も少し震えてしまうけれど、男の子――今埜くんはなにも言わない。……言うわけないか、面接官相手に。
言葉遣いはしっかりしているし、ハキハキ喋る。俺もよく知っているとおり、格好いい。笑顔が優しい。どんな質問にも丁寧に、ごまかしている感じなく答える。かなりの好印象。すぐ勤務可能。こちらで入って欲しいところは入れるし、他のアルバイトとの掛け持ちもない。ぜひとも採用したい。俺が決めることじゃないが。
でも、どうか採用にならないで欲しいというのが本心。本当に、お願い。真剣に祈ってしまった。
「今埜くん、採用ね」
「……はい」
そりゃそうだ。店長が正しい。俺が間違ってるのはよーくわかっている。それでもため息が出てしまう。
大学三年生、二十一歳。十歳下――またため息。
次の希望。どうか必要以上に関わりを持たずに済むようにお願いします、本当に。また真剣に祈った。
「よろしくお願いします、羽田さん」
――今埜くんの教育係を任された。
なんで俺? ……副店長だからか。
俺と同じ制服に身を包んだ今埜くんを見る。あの夜の記憶は曖昧だけれど、確かに今埜くんに抱かれた。微妙な関係になったらどうしよう。言いふらすようなことはしないだろうけど、心配ではある。
でも、気を張っているのが馬鹿みたいに、今埜くんはあのことには一切触れない。バーのことさえ口にしない。店の社員とアルバイトという関係をしっかり守っている。
「それ重たいですから、俺が運びます」
「あ、ありがとう……」
若くて力のある今埜くんが、納品されたビール樽を店の入り口から、飲み物を作るドリンクパントリーまで運んでくれる。俺も体力はあると思うし、力もそこそこあるほうなんだけどな。
今埜くんは自然に優しくて、真面目。びっくりするくらいしっかりしているかと思えば、子どもっぽいところもあったりする。格好よくて可愛くて、つい目で追ってしまう。
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