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ずるい男
俺は少女漫画のようなシンデレラストーリーに憧れているところがある。今読んでいる漫画も、平凡なヒロインが「運命だ」と言われて高貴な身分の男性に見初められる話でどきどきする。
でも、きわめて平凡なうえに男の俺にそんな出会いが訪れるわけがない。俺は俺に見合った恋愛をしたいと思っているけれど、いい男性との出会いがなく三十一。何人か付き合った人はいたけれど、なぜか深い関係に発展しそうになるとだめになる。自然とため息が出てしまう。このまま独りなのかな。
中学生のときに不思議に思った。なぜか気になるのが同性ばかり。小学生の頃から女の子を可愛いとは思っても、意識はしなかった。高校に進学して、自分の恋愛対象は同性だとはっきり自覚した。もちろん最初は悩んだけれど、どうやったって女性を好きになれないんだから仕方ない。
いつものバーに行くと妙に賑やか。なんだろう。
ひとりの男性にたくさんの男が群がっている……すごい光景だ。男性をよく見ると、かなりの美形。美形な時点で俺には関係ない。
……でも、もしここで声をかけられて、あの男性が実は高貴な身分だったりしたら……なんて妄想が脳内を駆け巡る。ついにやけそうになったところで男性と目が合った。
「やっと来た。遅いよ」
「……?」
なに……?
男性が近づいてきて、当然のように俺の肩を抱いた。
「な、な……」
「早く会いたかったのに、なかなか来ないんだから」
そう言いながらカウンター席に連れて行かれる。
ちょっと待って、どういうこと? 俺だけじゃなく、店内の全員がそういう目をしている。でもやっぱり俺が一番聞きたい。
「ごめんなさい。ちょっと困ってたんです」
「うん……わかるけど」
耳元でこそっと言われて、どきどきしてしまう。こんな美形とこんな距離、慣れていない。近くで見ると、男性と言うより男の子と言う雰囲気で、俺よりかなり年下のようだ。
「……でも、どうして俺?」
グラスビールで乾杯して一口飲む。男の子もビールを一口飲んでから微笑む。
「気になったから」
「っ……」
まさか、まさか……シンデレラストーリーがやってきたんじゃ……。そんなありえないことを考えてしまうくらい、その微笑みは薄暗いバーの中で非現実的だった。ありえないありえない、と思いながらもついついお酒が進んでしまうし、お酒もいつもよりおいしく感じる。ふわふわ気持ちよくて、だんだん男の子にもたれかかる姿勢になっていって、囁き合うように会話をしながら飲んでいたような…………。
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