38人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「なんで泣いてるんだ?」
「……うれしくて」
先輩が唇で涙を拭ってくれるのがくすぐったい。抱きしめられて先輩にくっつくと、肌が密着して幸せが心に満ちる。
「ごめん。跡残しちまった」
俺の胸元の赤い跡をなぞりながら先輩が謝るので、首を横に振る。先輩の耳元に顔を寄せ、「嬉しいです」と囁くと腰を引き寄せられた。
「あの……先輩」
「なに?」
「俺も、先輩につけてもいいですか……?」
自分で聞いておきながら恥ずかしくて隠れたくなる。でも隠れるところなんてないから、先輩の首元に顔をうずめる。
「つけて。俺もつけて欲しい」
髪を撫でられて、先輩の鎖骨の下に顔を寄せる。先輩がしていたみたいに吸うようにしてみるけれどつかない。
「……できないです」
「唇を少しすぼめて、きつめに吸うようにしてみて。噛みついてもいいよ」
「噛みつくなんてしません……」
言われたとおりにしてみるけれど、やっぱりうまくできない。
「できません……」
「じゃあお手本見せてあげる」
「あっ……」
先輩が俺の胸元に顔を寄せ、肌を吸い上げる。唇を離せばそこに鮮やかなキスマークが咲いている。先輩は鎖骨の下にも同じように跡を残した。
「俺もやってみます」
「うん」
状況はかなり違うけど、なんだか昔のようだと思いながら先輩の肌に唇を寄せる。何回かチャレンジしたら、ひとつだけ歪な薄い跡がついた。
「……先輩がつけてくれたのと全然違います。すぐ消えそう」
「消えたらまたつけてくれるんだろ?」
頬を撫でられて先輩を見ると、優しく微笑まれ、どくんと心臓が高鳴る。もう散々どきどきしたのに、まだどきどきするのかとびっくりしてしまう。
「……つけます。毎日でもつけます」
「それは一緒に暮らしたいっていうおねだり?」
「ち、違います……!」
そんなおねだりをしたつもりはないけれど、確かにそういう意味に聞こえなくもない。頬が燃えるように熱くなって先輩にぎゅっと抱きついて顔を隠す。
「違うんだ?」
「……違います」
「残念」
「え……?」
思わず先輩を見上げると、額をくんっと指で押された。
「じゃあ、まずは合鍵から?」
「あいかぎ……」
全身が心臓になったみたいに、身体中がどくんどくん言っている。先輩に抱き寄せられて、もう一度頭の中で「合鍵」と繰り返した。
END
最初のコメントを投稿しよう!