初恋の人

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「なんで泣いてるんだ?」 「……うれしくて」 先輩が唇で涙を拭ってくれるのがくすぐったい。抱きしめられて先輩にくっつくと、肌が密着して幸せが心に満ちる。 「ごめん。跡残しちまった」 俺の胸元の赤い跡をなぞりながら先輩が謝るので、首を横に振る。先輩の耳元に顔を寄せ、「嬉しいです」と囁くと腰を引き寄せられた。 「あの……先輩」 「なに?」 「俺も、先輩につけてもいいですか……?」 自分で聞いておきながら恥ずかしくて隠れたくなる。でも隠れるところなんてないから、先輩の首元に顔をうずめる。 「つけて。俺もつけて欲しい」 髪を撫でられて、先輩の鎖骨の下に顔を寄せる。先輩がしていたみたいに吸うようにしてみるけれどつかない。 「……できないです」 「唇を少しすぼめて、きつめに吸うようにしてみて。噛みついてもいいよ」 「噛みつくなんてしません……」 言われたとおりにしてみるけれど、やっぱりうまくできない。 「できません……」 「じゃあお手本見せてあげる」 「あっ……」 先輩が俺の胸元に顔を寄せ、肌を吸い上げる。唇を離せばそこに鮮やかなキスマークが咲いている。先輩は鎖骨の下にも同じように跡を残した。 「俺もやってみます」 「うん」 状況はかなり違うけど、なんだか昔のようだと思いながら先輩の肌に唇を寄せる。何回かチャレンジしたら、ひとつだけ歪な薄い跡がついた。 「……先輩がつけてくれたのと全然違います。すぐ消えそう」 「消えたらまたつけてくれるんだろ?」 頬を撫でられて先輩を見ると、優しく微笑まれ、どくんと心臓が高鳴る。もう散々どきどきしたのに、まだどきどきするのかとびっくりしてしまう。 「……つけます。毎日でもつけます」 「それは一緒に暮らしたいっていうおねだり?」 「ち、違います……!」 そんなおねだりをしたつもりはないけれど、確かにそういう意味に聞こえなくもない。頬が燃えるように熱くなって先輩にぎゅっと抱きついて顔を隠す。 「違うんだ?」 「……違います」 「残念」 「え……?」 思わず先輩を見上げると、額をくんっと指で押された。 「じゃあ、まずは合鍵から?」 「あいかぎ……」 全身が心臓になったみたいに、身体中がどくんどくん言っている。先輩に抱き寄せられて、もう一度頭の中で「合鍵」と繰り返した。 END
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