1 舞踏会の夜の悪夢

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 澄んだ藍色の両眼を細めて、アレイダ王国第四王子リーヌスは笑った。  軽やかで気取らないその笑顔に、令嬢たちの黄色い声が一段と高くなる。  王室の仕立て屋が腕をふるった盛装を優雅に着こなし、ふんだんに身に着けた宝飾品もよく似合って嫌味がない。  フェリサの個人的見解をいったん置いて一般的に見れば、誰をも魅了する見事な王子ぶりだ。  だからそのまま令嬢たちと舞踏会を楽しめばいいのに、このフェリサの主人は少し──いや、かなり──面倒な人間だった。 「だめだよ、僕から離れたら。きみは僕の護衛、僕の女騎士なんだから」  微笑んだまままっすぐやってきたリーヌスは、手袋越しにも形のいい手を差し出してきた。  三か月前から専属護衛になったフェリサに、彼は常にそば近くいることを要求してくる。  これが困るのだ。  第四王子お気にのペット、と同僚にもからかわれて迷惑もはなはだしい。  フェリサはさりげなく身を引いた。 「ご心配をおかけしたのでしたら申し訳ございません。ですが、わたしからは常に殿下は見えておりましたので、どうかご安心を」 「え、僕をずっと見つめていてくれたんだ?」 「任務ですから」
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