24 夜空に昇る月

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       § § §  昨夜よりもさらに輝きを増した月が、夜空を照らしている。  東の塔からのぞむ夜景は、昨日も今日も何ごともなかったかのように美しく、そして静かだった。 「きさまも、と言ったということは、イドリク兄上は魔女の薬を使っていたんだね。きっと、僕に渡したお茶のなかに」  リーヌスはつぶやくように言った。 「でもあれは、最初はイドリク兄上が持っていたカップだった。僕は何も聞こえなかったからわからなかったけれど、フェリサはどんなことを言ってうまく交換させたの?」  フェリサは苦笑した。  イドリク、そして国王とカミールに魔女の歌を聞かせるため、リーヌスの耳にパンを詰めさせておくことは避けられなかった。  というわけで、彼の見事な言いくるめ術は使えない。  自分だけで、リーヌスがつかまされたいんちき薬をひそかに入れたカップを交換しなくてはならない。  フェリサは事前に頭が痛くなるほどあれこれ考えていたのだが、結局は無駄だった。 「イドリク殿下が、みずから交換を申し出てくれたんです。同じことをしようとするとき、人は同じようなことを考えるのかもしれませんね」 「そうか。まあなんにしても、結果がうまく行ってよかったよ」
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