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「──はいフェリサ、ちょっと待って。また何かよからぬことを考えてない?」
驚きのせいで息が逃げた。
びくりとしてふりむくと、リーヌスがおもいきり疑いのまなざしで見ていた。
これじゃ正解だと言っているようなものだと思いながらもひるんでしまう。
「えっ、え? なななんですか!?」
リーヌスがぐいと顔を寄せてくる。
「いくらきみでも、自分の記憶は消せないだろう、フェリサ? じゃあこの世界にもうひとりくらい、きみと同じ記憶を分かちあう相手がいてもいい、というかいるべきだ」
月が照らす藍色の両眼が、さらに近い。
フェリサは息を入れた。
それが彼から記憶を消す歌のためだったのか、それとも別の言葉のためだったのか──。
ゆっくりとリーヌスに唇をふさがれて、その答えはついにフェリサにもわからずじまいだった。
《了》
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