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翌週の日曜日、陽太くんからメッセージが届いた。拓斗と一緒に、前に四人で飲んだチェーン居酒屋に来ること、という内容だった。
「なんだろう。まさか慰謝料とか恨み言?」
「陽太はそんな奴じゃない」
「だよね。じゃあほんとになんだろう」
駅で拓斗と待ち合わせて二人で居酒屋に着くと、あの日と同じ個室に陽太くんと、なぜか靖司さんがいた。
「遅いよ、拓斗、ユキくん」
「悪い」
「ごめん」
拓斗と一緒に謝るけれど、俺の目は陽太くんの隣に座る靖司さんから逸らせない。それに気づいた靖司さんは変わらない笑顔を向けてくれる。
「久しぶり、ユキ」
「……うん」
「拓斗くんに泣かされてない?」
「大丈夫だよ」
思わず笑ってしまうと、靖司さんはどこかほっとしたように目を細めた。二人の向かい側の椅子に拓斗と並んで座る。
「急にどうした、陽太」
「本当は拓斗の顔もユキくんの顔も二度と見たくなかったけどね!」
ぷいっと顔を背ける陽太くんの相変わらずな素直さに拓斗と目を合わせて笑ってしまう。
「俺達の前でもそうやっていちゃつけるなんて、ほんっと腹立つ! 振ってやってよかった!」
「そうだな。陽太には俺なんかよりいい相手がいる」
「うん、いたよ。すぐそばに」
陽太くんが靖司さんの手を握るので、拓斗と顔を見合わせて、それから二人を見る。
「今、陽太と付き合ってる」
靖司さんが穏やかに言葉を紡ぐけれど、びっくりしすぎて言葉が出てこなかった。
「だからユキが拓斗くんに振られても、もう慰めてあげられない。戻ってこられたら困るから」
「う、うん」
「拓斗くんと絶対別れたらだめだよ」
「……うん」
「ほんと、俺も靖司もお人好しなんだよね」
陽太くんが靖司さんの肩にこてんと頭をのせる。
「振られんぼ同士、なんか意気投合しちゃって」
「そうなのか」
「ていうか靖司がめちゃくちゃいい人なのは知ってたし」
二人が見つめ合うのを見ていたら、拓斗がテーブルの下で手を握ってきた。
「拓斗は譲ってあげたけど、靖司は譲らないから。二人は一生そのままいちゃついてて。今日はそれが言いたかっただけ」
「陽太……」
「あの、陽太く――」
「謝る暇があったらいちゃついてて。それでいいから」
なんで俺が謝ろうとしたことがわかったんだろう、と思いながら力強く頷くと、陽太くんが表情を緩めた。それを褒めるように、靖司さんが陽太くんの髪を撫でる。
「さて、飲もうか」
「え、飲むの?」
「俺と幸尚は帰ってもいいけど」
靖司さんがタブレットでドリンクを注文するので、俺も拓斗もまた驚いてしまう。陽太くんも靖司さんと一緒にタブレットを覗き込む。
「ビールにトッピングでタバスコとかできないかな?」
「できないよ。する気もないくせに」
「なんでそんなことわかるの?」
「陽太のことならわかるよ」
甘い雰囲気でいちゃついてる……。
なんだか力が抜けて、テーブルの下で繋いでいる手にぎゅっと力をこめたら、同じタイミングで拓斗も手に力をこめた。
「拓斗」
「なんだ?」
陽太くんが靖司さんの持つタブレットを覗き込んだまま呼びかけると、俺の隣の拓斗が応える。
「たくさん愛してくれたこと、ありがとう」
「!」
「幸せにならないと飛び蹴りだから」
「それは……痛そうだな」
「そうだよ。拓斗とユキくんは絶対幸せにならないといけないの」
タブレットを見たまま淡々と言う陽太くんが、とても大人に見えた。靖司さんが陽太くんの頭をぽんぽんと撫でると、その瞳からぼろぼろと涙が落ちた。
「拓斗なんか、大好きだったから……絶対幸せになれ……っ」
泣き出した陽太くんを慰めるように靖司さんが肩を抱く。拓斗を見ると、拓斗の瞳も潤んでいて、俺も泣きそうになる。拓斗が泣いているところなんて見たことがない。
「陽太くん、やっぱり俺達帰――」
「だめ!」
「そうだよ。陽太を泣かせた罰として、今日は拓斗くんとユキの奢りだから」
「めいっぱい食べて飲んでいちゃついてやる。悔しかったら拓斗とユキくんもいちゃついて見せろ」
「ええ……?」
なんだかよくわからないけど、拓斗と俺で奢るのは賛成だ。それくらいしかできることがない。……いや、陽太くんはいちゃついて見せろと言うんだから、いちゃついたほうがいいんだろうか。
拓斗を見る。
「陽太、ありがとう」
「……」
「ありがとう」
「やすしぃ……!」
「はいはい」
感謝の言葉には謝罪の気持ちもこめられていて、それを感じ取った陽太くんが靖司さんに抱きつく。俺も涙がこらえられなくて、でも俺が泣いていい場面じゃないとぐっと我慢する。
「幸尚」
「なに?」
「好きだ」
「……うん」
頬が熱くなると同時に心が和らいで、気持ちが緩んだら涙が零れてしまった。それはまるで拓斗の気持ちが嬉しくて泣いたようで――。
「靖司! 好きって言って!」
「はいはい。好きだよ、陽太」
「もう一回!」
「好きだよ」
賑やかな時間は始まったばかり。
END
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