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ベッドに横になり、メッセージアプリの連絡先を見る。
拓斗の声がまだ耳に残っている。
――恋人。
なんで自分の気持ちに気づいてしまったんだろう。幼馴染以上がわからなくて振って、拓斗に恋人ができたらやっぱり好きだった、なんて勝手にも程がある。拓斗が幸せならそれでいいじゃないか。奪う気なんてないし、そんな気があったとしても入り込めないくらい拓斗と陽太くんは思い合っている。連絡先に追加された『陽太』に眉を顰める。
帰り際、陽太くんは俺を呼び止めてスマホを出した。
「拓斗のこと色々教えて欲しいから、連絡先交換しよう?」
俺が知っている拓斗を陽太くんと共有するのはとてもつらいけれど、それは俺の問題。更につらいのが、陽太くんが嫌な人じゃないこと。あの後も体調が悪いんじゃないかとひどく心配してくれた――拓斗以上に。拓斗はどこかよそよそしかったように感じる。連絡もせずに会いに行った俺が完全に悪い。もしかしたら拓斗は俺にはもう会いたくなかったのかもしれない。
ぼんやりと『陽太』の字を眺めていたらスマホが短く震えた。
「拓斗……」
拓斗からのメッセージだ。嫌な緊張に震える指先でスマホの画面をタップする。
『陽太にあまり色々教えなくていいから』
むすっとしている拓斗の顔がどうしてか浮かんで、少し口元がゆるんでしまった。
『じゃあほどほどに教える』
送信して、一つため息をつく。拓斗は恥ずかしいのかな。俺だけが知っている拓斗を残しておいていいんだろうか……。
『幸尚も忙しいだろうし、そんなに構わなくていい』
つまり、拓斗が陽太くんを構うから必要ない、という意味になるのか。こんな考え方もひねくれていて嫌だけど、きっとそういう意味だと思う。
『拓斗ってそんな感じだったっけ』
俺の知っている拓斗は周りともっとさらっとした関係を作っていた気がするけど、恋人はやっぱり違うのか。どうしてそれが俺じゃないんだ。
「……俺が振ったからだっての」
自分で言って落ち込む。
『そんな感じってなに?』
スマホにメッセージが表示される。そうか、拓斗は自分が変わったことに気づいていないのか。
『すごく柔らかくなった』
俺以外にあんな風に微笑みかけるなんて思わなかった。拓斗の笑顔の先にいるのが自分だけだと思い込んでいたことにも呆れてしまう。
『色々変わったから』
届いたメッセージに胸がずきりと痛む。その色々の中に俺への気持ちも含まれているんだ、と理解したら無性に泣きたくなった。
『眠いから、おやすみ』
送信してメッセージアプリを閉じる。
俺が自分の気持ちに気づくまで拓斗が待っていてくれたら満足だったんだろうか。そんな、いつになるかわからないことで拓斗を縛るなんておかしい。つまり、今の状況は俺が拓斗を振ったあの日に作られた道筋で、あそこが大きな分岐点だったんだろうと思うと、悔しくてやっぱり泣きたくて、でも泣くことも悔しくて、どうにもならない感情を吐き出すように大きなため息を吐いた。
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