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陽太くんには靖司さんから報告してくれるということで、俺は拓斗に報告したほうがいいかと聞いたら、「陽太から聞くだろうからしなくていい」と止められた。俺も冷静に報告できる気がしなかったから助かった。……靖司さんと付き合うと決めたのに、こんなんじゃいけないとわかっていながら動揺してしまう。
「ユキはそのままでいいよ」
「ごめん……」
「大丈夫だよ。どんなユキも好きだから」
靖司さんが優しければ優しいほど、俺は苦しくなる。心に住んでいるのが靖司さんだけではないから。その心を見ないふりをしていても、気がつくと拓斗のことを考えている自分が怖くなるときもある。そんな俺を優しく導いて、抱きしめてくれる靖司さんはすごいと思う。せめて靖司さんに抱きしめられているときは絶対に拓斗を重ねたり、思い出したりしないよう心に蓋をする。
「あー、こんなとこでいちゃついてる!」
「っ……!」
聞き慣れた声に靖司さんからぱっと離れてそちらを見ると、陽太くんがこちらを見てにこにこしている。その隣にはもちろん――。
「……」
拓斗が怖い顔をして俺達を見ている。
「いいだろ、どこでいちゃついたって」
靖司さんの声にはっとして拓斗から視線を逸らした。
「開き直ってるし。拓斗、俺達もいちゃつく?」
「しない」
「拓斗もたまには道端でぎゅうってしてくれたっていいんだよ?」
「だからしない」
ぱっと表情を変え、陽太くんに優しい笑みを向けた拓斗が視線をこちらに移し、また鋭い視線で靖司さんを見る。靖司さんを見ると、とても穏やかな瞳で拓斗を見ている。正反対な視線がぶつかり合い、俺は靖司さんの手を引いた。
「行こう、靖司さん」
「ユキ?」
「俺、お腹空いたよ」
「そっか、ごめん。じゃあ行こう」
手を握られて、どくんと心臓が嫌な音を立てる。拓斗が見ている、と思ってしまう自分が嫌で、なんでもないふりをしてその手を握り返した。
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