いざ、鬼灯館ヘ

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「影山さんの遺体に手掛かりがあるかも知れません。何かないですか?」 「何か原稿用紙を握っているようです、文章が書いてありますが、ダイイングメッセージでしょうか?」本野は影山が握っていた原稿用紙を手に取り、読み上げます。 『これから、この鬼灯館にて、連続殺人が起こる。帝旺大学の名探偵諸君、私を止められるものなら、止めてみろ!』 「ダイイングメッセージにしては長すぎる。酔って書いた割には漢字に誤字脱字が見当たらない。目を引くのが句読点のかずです。二三行の文章に五つある。これは落ち着いた状態の時に書かれた文章といえるでしょう」私はそう推測しました。 「確かに感情的になっている時の文章は句読点のかずが少なく、時にはない時もあります。それはSNSの投稿にも言えますが、同時に誤字脱字もあれば投稿者が気付いていない事も多いです。犯人はここに来る前から私たちの事を知っていた。つまりこの文章は犯人からの挑戦状っていう事ですね」 「的確な推理です本野さん。連続殺人となると私たちに何らかの共通点があり、それが犯人の動機と繋がっている可能性もあります。その共通点を探ってみましょう」 「共通点か、帝旺大学三回生、ミステリー研究会メンバーという事しか思い浮かばないが」高木は考える素振りを見せました。 「でもメンバー一人一人は、専攻ジャンルが異なりますよ。とはいえ互いのジャンルの相違で揉めた事もないし」町丘は高木の意見をそう指摘しましたが、犯人の犯行動機に繋がりそうな黒歴史を私たちが持っているかというと記憶を手繰り寄せるしかありません。 「研究会で誰か一人をいじめたとか、そういう記憶ある人はいますか? ネットいじめもその中に含めます」 「俺たちはそれぞれのジャンルを尊重してるからそれはないかな」 「犯人の意図は犯行を止めて欲しい。というより止める事は出来ないとどこかマウントをとっているようにも思います。相当自信があるという事でしょう。しかしここで犯人の挑発に乗らない方が上策ですね」ミステリー入門者の割にしごく全うな意見です。 「犯人の心理や探偵の葛藤に迫るタイプのミステリーはたくさんありますが、被害者の心情も考えましょう。影山さんにも家族はいます。家族が娘さんの死亡を知ったらどう思うか、事件の裏側でないがしろにされているのはいつも被害者側なんです」 まるでジャーナリストのような口ぶりではありますが、確かにこうした事件では犯人の実情や心理に触れますが、被害者側の遺族がどうなったかというのを考えて欲しいという町丘の意見にも納得出来ます。
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