本当に必要なもの

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 それから新堂さんと連絡を取り合うようになったけれど、どこまでも自分の思うとおりのところに感動する。正反対すぎる考えの新堂さんの言葉はまっすぐで、俺は自分がいかにぶれやすいかに気がついた。いつでも流行りを追って、流行りが過ぎれば次へとすぐ移る――そんなのぶれるに決まっている、と自分でも思ってしまった。  新堂さんに渡すためにジャケットをクリーニングに出したら、突然あの日言いかけたことを思い出した。俳優かモデルか聞こうと思ったんだ。あんなに美形なんだから絶対一般人ではない。 『新堂さんは俳優かモデルですか?』  夜、ビールを飲みながらメッセージで聞いてみる。アイドルという感じはないから、きっとどちらかだ。 『そんなわけない』  返ってきた答えに、えっ、と声を上げてしまう。あんなに恰好いいのに一般人なんてことがあるのか。もしかして隠しておかないといけないのかな。 『仕事のことは秘密なんですか? サイン欲しいんですけど』 『寝言は寝て言え』 『寝言じゃないです』 『もっと悪い』  そんなに秘密にしておきたいのか、と思っていたら通知音が鳴った。 『ただの会社員。俳優もモデルも違う』  会社員……そんな馬鹿な。こんな人が社内にいたら大騒ぎだろう。それとも見慣れれば大丈夫なのか。いや、あの恰好よさは見慣れるなんて絶対ない。 『本当は俳優とモデルどっちですか?』  送信したらすぐ返信があった。 『おまえ、馬鹿だろ』 「……」  この答えということは、本当に一般人なんだ……。信じられない。むしろあの整った顔面を生かさずにいたら失礼ではないか。  通知音がまた鳴る。 『ふざけたことばっか送ってくるな』 『ふざけてません。真面目です』 『もっと悪い』  また同じ言葉が返ってきた。うーん、と一つ唸って首を傾げる。それでもモテるのは確かなはず。新堂さんほどの美形を女性達が放っておくわけがない。それとも彼女がいるんだろうか。 『付き合っている人はいるんですか? 女性が放っておかないでしょう』 『いない。いらない』  返信早いな、即送られてきた。いらない、ってすごすぎる。一度でいいから言ってみたいけど、どう考えても俺は言われる側だ。 『新堂さんはいつからそういう考え方なんですか?』  既読になったけれど、今度は返信が来ない。前から思っていたけれど本当にマイペースな人だ。空になった缶を片付けて冷蔵庫からもう一本ビールを出し、プルタブを上げたら通知音が鳴った。 『そういうってどういう?』 『周りの人の目を気にしないのとか、彼女がいらないとか』  また既読になって返信なし。十分ほどしてから通知音が鳴った。 『スマホの入力面倒。また今度』  マイペース……。『わかりました』と返信するけれど、もう通知音は鳴らなかった。
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