ひとときの休息

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「……寒い」 寒くて思わず吐いてしまいそう、とはこのことだ。あまり頼りにならないカイロを必死に振り、唯一暖の取れる、炭を燃やしている簡易的なストーブの近くに立つ。手がかじかむどころかしもやけになっている。痛くて、思い通りに動かせない。 「ああぁぁぁ……」 思わず、小声ではあるが声が漏れてしまう。体がぞくっとする。震えている。 「……あ」 ちょっとバランスの悪い獅子舞が前を通った。もう、15時か。 三が日、地元の神社でバイトをしている私にとって、寒さに負けていては話にならない。最後尾が見えないほど途切れることのない参拝客。獅子舞や力作業をしている男性たち。指示を出している神主のおじさん。みんな、あまり顔には出ていないが、寒いのだ。寒くて、凍えて、震えているのだ。 「あの獅子舞のお兄さん大変そうだよねぇ」 一緒にバイトをしている人が話しかけてきた。 「そうですね」 私たちに与えられた10分の休憩時間。正直、誰かと話すより、暖を取ることに集中したいという気持ちがないと言えば嘘になる。 「って言っても、私たちのほうが大変か」 笑いながら話す。獅子舞は何時間かおきに出てくるが、私たちは昼休憩と、人が若干少なくなってくる時間以外、ほとんど外にいるのだ。お守りを売り、お金のやり取りをする。 「せめてあと5℃くらい気温が高ければいいのだけれど」 他愛のないことを話している間にもう10分経ってしまった。 「戻ろっか」 さて、日が沈むまであと2時間。ここからが私たちの勝負だ。
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