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2.天女の恋人
手に落ちてこないかぐや姫みたいな女は、遠くで眺められればそれでいい。
俺にとって遥は生身の女という感じがしなかった。オタクがフィギュアを眺めるように俺は遥を眺めていた。
それ以上の感情なんて、俺は持っていない。
だが、そんな彼女に密やかに憤りを感じる出来事が起きた。
卒業間際だった。俺たちが所属する廃墟探索愛好会で飲み会があった。こじゃれたレストランで行われたその会の奇妙に上滑りした居心地の悪さに、俺はほとほとうんざりしていた。
こんな会、あいつがいなきゃ参加したいなんて思うわけがない。俺はげんなりしながら席を立った。
宴席を離れてしはらくして……俺は遥を見つけた。店のエントランスに備え付けられたソファーの上、長い足をしどけなく投げ出して彼女は座っていた。遥、と呼ぼうとして俺は口を噤む。遥の横にはもうひとり、男がいた。
遥と堀尾が付き合っていることは知っていた。堀尾が俺よりも金持ちで、俺よりも将来性がある男であることは身なりでわかったし、俺に太刀打ちできるわけがないことも理解していた。実際、遥はいつも俺に言っていたのだから。
「地球の地軸が逆転しても神山くんと付き合うことだけはない。だって神山くん、絶対将来お金に苦労しそうだもん」と。ひどい女である。だが、遥らしい。これこそが遥だ、とさえ俺は思っていた。
でも、こいつとだけは許せない。
「まずは野宮。お前のポケットから見せろよ」
俺は、いびつに唇を持ち上げ、野宮を見据える。
あの日、遥と口づけを交わしていた相手を。
遥が選ぶ相手を俺は否定しない。かぐや姫に拒否された皇子たちは納得して、潔く身を引くべきなのだ。でも……相手が野宮と言うなら俺は納得できない。絶対に。
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