二回目

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 結局その日、私たちはお昼ごはんを食べなかった。夢菜にはすぐにお酒が必要らしかったし、コウちゃんはごはんよりお酒が好きだ。だから私たちは近所のスーパーマーケットに行って、お酒を買い込んだ。夢菜は本当にお酒をおごってくれた。私は、お酒と乾きものばかりのおつまみにまぎれて、お寿司のパックを選んだ。  私の部屋で、いつもみたいな飲み会になった。私はお寿司を食べながら、ちびちび檸檬サワーを啜った。夢菜はハイボールをがぶ飲みし、コウちゃんもそれに付き合っていた。  「バカみたい。」  飲み会が始まって、一時間は経った頃になって、ぼそりと、夢菜が言った。  「子どもいるんでしょって言ったら、バカみたいに動揺してた。……ほんと、バカみたい。」  それが、今回の恋愛について、夢菜が語った全てだった。私とコウちゃんも、夢菜の言うことにただ頷いただけで、それ以上の事情を聞こうとはしなかった。だから自然と話題は尽きて、銘々無言で食べたり飲んだりした。夢菜の失恋飲み会は、いつだってこんなふうに静かだ。  それから二時間くらいしたら、夢菜が黙って立ちあがった。煙草を吸いに行くのだ。コウちゃんももうその習性を知っているから、不安そうな顔もせず、行ってらっしゃい、と、目を細めて微笑みながらビールを飲んでいた。  夢菜は、20分は帰ってこない。そう思うと、急に私の意識はコウちゃんの右手に集中した。三時間前、私の左腿を撫で上げたコウちゃんの右手。気持ちがよかったな、と感触を思い出せるのに、そのときの自分の感情は、雲をつかむように曖昧模糊としていた。  もう一回触って。  テーブルの向かい側に肘をついて、貝ひもを食べているコウちゃんに、そう言いかけて、やめた。コウちゃんは、自分が女のひとの身体を触るのが上手いことを、よく思っていない気がした。理由は分からないし、なんでそんなふうに思うのかもよく分からないけれど、妙にはっきりと。  私の腿を撫でながら笑ったコウちゃんの、不穏な感じが思い浮かんだ。今、向かいで貝ひもをかじるコウちゃんの、泰平楽な表情からは想像できないような、暗み。  結局私はコウちゃんになにも言い出せず、夜中まで長々とお酒を飲み続けた。  まだ夜は寒かったので、私と夢菜は布団で、コウちゃんは毛布にくるまって床で寝た。二人が早々に寝息をたてはじめても、私は眠れなかった。なんでだか、コウちゃんと性的なことをすると眠れなくなるみたいだった。暗い天井を見上げながら、コウちゃんと一回くらいセックスしてみたいと思った。
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