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セックスは、三回目のデートの後でした。映画を見た帰りだった。映画はあまり面白くなかったけれど、隣の大学生が、面白いシーンになると笑いをこらえたり、感動的なシーンになると涙をこらえたり、佳境に入ると息を飲んだりする気配が伝わって来て、それは面白かった。素直なひとみたいだな、と思った。
映画終わりに居酒屋で軽く晩ごはんを食べて、その後、大学生は私のアパートまで送ってくれた。私は、なんだかそうするのが義務みたいなそんな気がして、大学生を部屋に上げた。お茶でも飲んでいけば、なんて言って。もちろん結局、お茶なんか飲まなかった。私と大学生は、万年床に転がり込んでセックスをした。セックスもやっぱり、面白くはなかったけれど、大学生が素直なひとだっていうことは、端々で伝わってきた。多分、それでいいんだろうと思った。気持ちよさで言えば、コウちゃんに腿を撫でられたときの方が上だな、と、そのときの感触を思い出したりもしたけれど、もっと言えば、コウちゃんとセックスしてみたいな、と思ったりもしたけれど、思うだけなら自由のはずだ。
大学生は、私の家には泊まらずに帰って行った。なんでも、住んでいるのが実家だから、黙って外泊すると面倒なのだと言う。私は、いまどきの男の子がそんな律儀なことを言うなんて、と、ちょっと感動すらしてしまって、大学生をアパートの外まで見送った。
その後も、私と大学生は、バイトのシフトがかさなった日は一緒に帰ったし、一週間に一度はデートもした。キスもセックスも、大学生はだんだん上手になっていった。多分、素直だから飲み込みがいいのかもしれない。
そんな頃、バイト終わりに一緒に帰ってきたところを、ちょうどアパートから出ていこうとしている夢菜に見つかってしまった。夢菜は、私たちを見ないふりしたし、私も夢菜なんて知らないふりをした。恋人を夢菜に見られるのははじめてだったので、なんだかどきどきした。
それから少しして、私はバイトを辞めた。理由は特にないけれど、働くのがなんだか面倒になった。ほんのちょっとだけ貯金があったから、それが尽きるまで休んで、それから新しいバイトを見つければいいと思った。私には、時々あることだ。
バイトを辞めると、大学生とは自然に疎遠になった。多分、私が悪いのだろう。悲しくなったりはしなかったけれど、少しだけ、寂しいな、とは思ったかもしれない。
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