三回目

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 大学生と別れたことを夢菜に知られたのは、仕事を辞めて一週間くらい経った頃だった。  「仕事、辞めたの? あの彼氏に養ってもらうの? コウちゃんみたいに。」  私の部屋で、そうめんを啜りながら、夢菜が冗談交じりにそう言ったので、私も笑って、彼氏とも別れたの、と言った。彼氏と別れたとか別れてないとか、そんな話を夢菜とするのは、これがはじめてだった。  「え、別れたの?」  「うん。仕事辞めたら自然消滅。」  「なんで、言ってくれなかったの?」  またこれも冗談で言っているのだろうと思っていたら、目の前の夢菜が真面目な顔をしていたので、私は戸惑ってしまった。  「なんでって……。」  「酒でも飲もうか。」  「別に、いいよ。」  「いや、飲もう。飲まなきゃ。」  そんなことを言われても、そもそも私はお酒をほとんど飲めない。でも、夢菜はどんどん立ちあがって部屋を出ていき、あっという間に近所のスーパーマーケットでお酒とおつまみを買い込んできた。私は、なんだか圧倒されてしまって、夢菜がプルタブを開けて差し出してくれた檸檬サワーに、黙って口をつけた。すると、いつもの謎のセンサーで、飲み会の空気を嗅ぎ取ったらしいコウちゃんが、インターフォンも鳴らさずに、夢菜が鍵をかけずにいた玄関のドアを開けて部屋へ入ってきた。  「俺のは?」  「あるよ。」  夢菜がスーパーのビニール袋からビールの缶を取り出して見せると、コウちゃんは、満足そうに一つ頷き、テーブルに着いた。  飲み会の間中、私は別になにも言わなかった。言うべき言葉なんかなかったし、今度の恋なんて、特になにも特別ではなかった。それに、夢菜だっていつも、失恋飲み会のときはほとんどなにも言わない。コウちゃんと夢菜も、私になにか言葉を求めたりはしなかった。  夢菜はお酒をどんどん飲んだ。夢菜の失恋飲み会のときを、上回るくらいのペースだった。私はびっくりしてしまったのだけれど、コウちゃんは平然としていた。平然と、夢菜に合わせてビールをどんどん飲んでいた。  なにを、そんなに飲むことがあるのか。  私が唖然としているうちに、夢菜がぼろりと涙を流した。右目から一つ、左目から一つ、さらに、両目から続けざまにぼろぼろと。  私は心底びっくりしてしまって、なにも言えなくなってしまった。それだけの迫力が、夢菜の涙にはあったのだ。  どうしよう、と思ってコウちゃんの方を見ると、コウちゃんは平然とテーブルに肘をついて、ビールを飲んでいた。ぜんぜんちっとも、驚いたりしないで。
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