コウちゃんが死んだ

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 暗い天井を見つめていると、全然知らない他所の男の人を家に上げてしまったことを後悔する気持ちがもくもくとわいてきた。こういう後悔は、これまでしたことがなかった。私は、全然知らない他所の男の人を家に上げてしまうほど、うかうかはしていないつもりだ。でも、コウちゃんはすやすやと寝息を立てて、手を伸ばせば届く距離に寝ている。  あーあ、やってしまった。珍しく。  そんなふうに、唇だけ動かして後悔を形にしてみた。それでも、そんなに嫌な気分じゃないことが、不思議だった。  翌朝、コウちゃんは夢菜より先に起きた。ぱちりと目を開け、おはよう、そんなふうに、あっけらかんと挨拶をしてきた。布団の上に座って麦茶を飲んでいた私は、曖昧に返事をした。二日酔いをしていて、元気がなかった。すると、コウちゃんの声で夢菜が目を覚ました。夢菜は酒に強いし、二日酔いにはめったにならない。今日も今日とて元気に起き上がると、ひとつ大きく伸びをした。そして、コウちゃんにも私にもなにも言わずに、てこてこと歩いて部屋を出ていった。シャワーを浴びるのだ。酒を浴びるほど飲んで、大きく伸びをして、シャワーを浴びる、までが、夢菜の失恋の一つのパターンだった。シャワーから戻ってきたら、もういつもの夢菜に戻る。泣いたりは、しない。  コウちゃんが心配そうに夢菜の背中を見ていたので、そのことを説明してあげた。コウちゃんは、そっか、と軽く頷き、立ち上がると、勝手に冷蔵庫を開け、勝手に台所の棚からとったグラスに麦茶を注ぎ、立ったまま飲んだ。  夢菜はいつも通り、20分で戻ってきた。長い髪は、まだ少し湿っていたし、両目が少し赤かったけれど、いつもの夢菜だった。  コウちゃんと夢菜がお腹が空いたと言うので、三人でアパートを出て、一番近くのコンビニに行った。私は食欲がなかったので、あさりのお味噌汁だけ買った。夢菜は卵サンドを買って、コウちゃんはおにぎりを2個買った。それで、三人でコンビニの前のベンチに座ってそれを食べた。食べ終わると、コウちゃんは、じゃ、と言ってどこかに消えた。私と夢菜は、なんだったんだろうね、あいつ、と少しだけ話してから、それぞれの部屋に帰った。  コウちゃんはそれから、時々私の部屋にやってくるようになった。なにか特別のセンサーでもあるみたいに、コウちゃんは私と夢菜が二人でいる時だけ、やってきた。だから、私はコウちゃんと二人で会ったことがない。夢菜もそうなのかは、知らない。
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