一回目

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一回目

 コウちゃんと、ちょっとだけエッチな雰囲気になったことが、三回ある。一年間で三回。多いのか少ないのかは、分からない。  一回目は、夢菜が何回目かの失恋をした夜のことだった。  私と夢菜とコウちゃんは、三人で私の部屋でお酒を飲んでいた。夢菜の相手は、いつものように、奥さんのいるひとだった。夢菜の恋は、いつもそうだ。いつも、夢菜ははじめ、相手のひとに奥さんがいることを知らない。それで私に、今度こそちゃんとした人だと思うんだ、と、嬉しそうに報告する。私は、またいつものパターンかなー、と思うけれど、そうは言えない。よかったね、と祝福する。そこから何度かのデート、キスやセックス、その合間にのぞく、疑惑。夢菜はもちろんはじめのうちは、その疑惑を無視しようとする。自分の勘違いだと。でも、そのうち意図せず動かぬ証拠を掴んでしまう。それは、奥さんからのラインだったり、電話だったり、色々だ。そういう手順を踏んで、夢菜は失恋をした。それで、私の部屋でがぶがぶお酒を飲んでいた。  失恋したとき、夢菜は多くを語らない。ただ、泣きながらすさまじい勢いでお酒を飲む。私は、それを見てなんとなく、夢菜の辛さみたいなものを、察したりする。深夜になるまで、私たちはほとんど無言でお酒を飲んだ。  真夜中、夢菜が立ちあがり、黙って部屋を出ていった。自分の部屋に戻って、煙草を吸ってくるのだ。私の部屋は、禁煙だから。  コウちゃんが心配そうな顔をするので、そう説明してあげると、コウちゃんは安心したみたいにちょっとだけ笑った。  「夢菜はすごいね。」  コウちゃんが言った。  「なにが?」  「すごいエネルギーで恋愛してるんだな。」  感心したみたいに、コウちゃんは、夢菜が飲み干しては床に並べたハイボールの缶を顎で示した。  「蘭子はないでしょ、こういうの。」  知ったような口を利かれて、私はちょっと、むっとした。私にだって、恋人がいたことはあるし、失恋したことだってある。  「そんなの、コウちゃんだって。」  だから、そう言い返した。ふらふら女をとっかえひっかえして生活しているコウちゃんにだって、夢菜みたいなエネルギーはきっとないはずだ。  するとコウちゃんは、喉の奥で低く笑った。なんだか不穏な声だったので、私は少しびっくりしてコウちゃんを見た。コウちゃんも、なんだかびっくりしたみたいな目をして、私を見返してきた。
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