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5ー4 会いたい
俺は、息苦しくなってぶわっと湯から顔を出すと肺一杯に空気を吸い込みはぁっと吐息を漏らした。
ルトが俺の背後に回ると髪を洗い出した。
「どうしたんだよ?ルシウス」
ルトが俺に訊ねた。
「あんな爺さん相手に夕べは、すごい乱れてただろ?」
俺は、また顔が熱くなる。
これは、ルトが悪いわけではない。アンリの命でルトは、俺が客をとっているときは、俺の部屋の隣の小部屋に待機している。
それは、客のいきすぎた行為を止めるためであり、俺の身を守るためとのことだった。
まあ、ルトには、すべて知られているといってもいい。俺は、ルトになにげに訊ねた。
「俺とヤーマン様の会話、きいてた?」
「いや。なんか話してるのはわかったけど、話の内容までは聞こえなかった」
ルトは、俺の髪を湯で流して乾いた布で拭いくと髪にいい香りがする油を塗り込んだ。
「それがどうかしたか?」
「いや。なんでもないんだ」
俺は、立ち上がると風呂から出て布で体を拭う。ルトが俺にベッドに横になるようにと合図する。
「今夜も爺さんがくるんだろ?」
俺は、複雑な気持ちだった。
ヤーマン老、つまりカルゼには、会いたいと思うけど、まだ、気持ちが整理できずにいた。
カルゼがなぜ、ヤーマン老の姿で人間界にいるのかは、わからない。でも、ヤーマン老の立場がある以上は、カルゼも迂闊には動けないだろう。
それは、俺だって同じだ。
確かに俺は、かつてカルゼの、邪神の伴侶だったのかもしれない。でも、今の俺は、ただの人間で。いや、それどころかアンリの奴隷で男娼だし。
うつうつと考えながらルトに香油を全身に塗ってもらっている内に、俺は、眠りに落ちていた。
そして。
夕方に目覚めるとルトが俺に伝えた。
「あの爺さん、今夜も来るってさ」
「・・そうか」
俺は、うつむくとふぅっと吐息をついた。そんな俺を見てルトが声をかけた。
「嫌なんだろ?ルシウス。今からでもアンリに言えば?きっとうまく断ってくれるだろ」
ルトの言葉に俺は、頭を振った。
俺は、ヤーマン老に会いたくないんじゃない。
どちらかというと、すごく会いたい。
だけど。
まだ、俺自身の気持ちが整理できないんだ。
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