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5ー5 リゾット
夜がきて俺は、ずっとヤーマン老が訪れるのを待ち焦がれていた。だが、ヤーマン老は、なかなか現れなくて。
俺は、やきもきして待っていた。
待っている内にヤーマン老に何かあったんじゃないかと心配になってきて。俺は、何度もルトに店の近くまで見に行ってくれるようにと頼んだ。ルトは、そんな俺の様子を怪しみながらも黙って頼まれてくれていた。
結局、ヤーマン老がやってきたのは、その日の夜半過ぎのことだった。
彼は、疲れた様子で俺のもとへとやってきた。
「すまないね、遅くなって。ちょっと急ぎの用があったもんでね」
ヤーマン老が俺に言い訳する。
なんでも荷を運んでいるキャラバンが馬車の故障で到着が遅れたとか。
この世界は、長距離の移動は馬車やら荷馬車を使うことが多いのだがなかなかに時間がかかるのだ。
それは、道が悪いことが原因の1つだった。このエイダース王国は、王都周辺ですら街道が整備されてはいなかった。
そして、第2の理由は、治安の悪さだ。キャラバンは、道中、盗賊やら魔物やらに襲われることも度々あった。そのためたいていは、護衛を雇っていたがそれもあてにはならないことも多かった。
護衛は、冒険者ギルドを通して依頼されるのだが、冒険者の中には、盗賊と通じている者もいたりしたし、そうでなくともいざというときに逃げ出す者までいる始末だった。
俺は、思案していた。
どうすれば商会の荷物を安全に素早く輸送できるようになるだろうか?
ともかく俺は、疲れきっているヤーマン老に暖かい食事を用意してとってもらった。
それは、夜中ということもあり消化がよくて腹もくちくなるものということで俺自ら厨房を借りて調理したものだった。
王都では、小麦の他にわずかだが米も流通していた。俺は、米を使ってリゾットを作ってヤーマン老に提供した。
ほかほかのリゾットを一口食べたヤーマン老は、それを称賛した。
「うまい!こんなものは、食べたことがない」
大陸中をめぐっているヤーマン老でも食べたことなかったらしく、彼は、夢中で食べあっという間に完食した。
「これは、ルシウスが作ってくれたのかね?」
「ああ」
食後のお茶を飲みながらヤーマン老は、俺にきいた。俺は、まだ、2度も転生しているということは、彼に話していなかった。
ヤーマン老は、じっと探るような視線を俺に向けた。
「これをどこで知ったんだね?ルシウス」
「秘密です」
俺は、そう答えた。
一瞬、ヤーマン老の目の奥がきらっと光ったような気がしたが、気のせいだと俺は、思っていた。
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