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8ー3 国王陛下の紹介状
アンリから身請け話をきかされてから俺の中には、1つだけ気がかりなことがあった。
それは、カークのことだ。
最初、俺を身請けしたいと言ってくれていたのにアンリに断られて以来、俺の前から姿を消してしまったカークのことを思うと今でも俺は、胸が痛くなる。
ちょっと前にどこかの令嬢と婚約したってきいたけど、今、幸せなのだろうか?
アンリは、彼が婚約したとき、長い初恋が終わったとか言っていたけど、俺の中では、まだ終わらせることができずにいるのかもしれない。
だって、彼は、俺にとって初めての男だから。
男に抱かれるのも初めてなら、客をとるのも初めてだった。キスも、何もかもが初めてだった。
さよならすることも。
この思いに終止符を打たなくては、俺は、この娼館から去ることはできない。
俺は、手紙を書き、それをアンリに頼んでカークへと届けてもらうことにした。
アンリは、俺がカークに手紙を届けて欲しいというとすごく驚いた表情で俺を見つめていたが、やがて、くっくっ、と笑い出した。
「何がおかしい」
俺がむくれているとアンリは、おかしくて堪らないというように笑い転げた。
涙を流して笑っていたアンリは、やがて、ふぅっと息を吐くと俺に向き合った。
「あいつのことが忘れられないのか?ルシウス」
「別に」
俺は、アンリから視線をそらした。
「ただ・・気になったから」
「そうか」
アンリが口許を綻ばせる。
「安心しろ。この手紙は、必ず、私がカークへ届けてやる」
俺がアンリにカークへの手紙を頼んだ数日後のことだ。
その夜は、雨でさすがのこの店も早じまいしようとしていた。
俺ももう、夜着に着替えてベッドに転がって本を読んでいた。
そこにルトがやってきた。
「ルシウス、客だぞ」
はい?
俺は、ふぁっとあくびをして本を閉じた。
「もう、断ってくれない。そんな気にもならないし」
「それが・・」
ルトが小声で言った。
「なんかいわくつきの客らしいんだ」
いわくつきの客だって?
ルトが言うには、アンリが絶対に断れないといっているらしい。その客は、なんでも国王陛下の手紙を持ってきたのだという。
「国王陛下の紹介状?」
俺は、眉をひそめた。
嫌な予感しかしないし!
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