プロローグ

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   朦朧とする意識の中、赤毛の少年はうっすらと目を開く。自身の心臓の鼓動だけが、やけに大きく響いていた。  霞む視界の端で、何かの光が煌々と輝いている。天に閃く稲光の如き蒼白色のそれは、薄暗闇の中をまるで踊っているかのように、ゆらゆらと揺れていた。  煩かった心臓の音が、段々と聴こえなくなっていく。どうやら感覚が戻ってきたようだ。次第に体のあちこちが痛み出し、少年はうつ伏せに倒れたままに顔をしかめた。  心音の代わりに聴こえてきたのは、風の音だ。音はその蒼白色の何かから響いているようだった。  何者かの高らかな笑い声が、何処からか響き渡る。徐々に強まる痛みに、少年は歯を食いしばりながらも上体を起こすと、笑い声の主を捜して周囲を見渡した。  辺りには、沢山の瓦礫や木片が散乱している。ただの廃墟のようだが、見知った柄の残骸が点在しているところを見るに、どうやらその廃墟はかつて自分の家だったものであるらしい。  それが一体、何故、こんな有り様になっているのか。少年は何も思い出せぬまま、大粒の涙を溢す。頬を伝ったそれは、額から流れる赤色の液体と混ざって、彼の着ている服に綺麗な薄紅色の染みを作った。  
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