片恋

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片恋

 吉高はかっこいい、というよりは綺麗、と形容するにふさわしい男だった。  いつの時代もどこのクラスにもいるだろう。勉学よりも、ファッションや髪型、流行を追うことに価値を見出し、世のなかをおもしろおかしく生きているような余裕ぶちかましている美男美女の集団。  真面目で勤勉、だけど自信のない類の先頭を走る僕は、そんなやつらが苦手だった。特になにかに秀でているわけではないのに(そりゃ、容姿に関しては、秀でていたけど)、彼らは、とてもキラキラしていてよく目立った。やつらを前にすると、僕は自分がものすごくつまらない人間のように思えた。ウイットに富んだ会話を交わす彼らは、まるで貴族の遊びをするように人生を余裕で楽しんでいた。  吉高薫は、そういうチャラチャラした奴らの筆頭で『ロング・バケーション』でのキムタクのように髪を長く伸ばしてゆるいパーマをかけ少し明るい茶色に染め、耳にピアスをして―――それらはすべて、校則で禁じられていた―――鞄にPHSを忍ばせていた。  当時といえばまだポケベルが主流の時代で、今とは違いそういった類の通信機器を高校生が持ち歩くことはいけない、とされていた時代だった。  僕に言わせれば吉高は不良だった。  もちろん、髪を金髪に染め煙草やシンナーをやるような不良ではなかった。弱いものいじめもしないタイプで。むしろ、吉高は、みんなに優しかったし、遊んでいる割に教師にも好かれた。でも、だからこそかもしれないけど、僕は吉高のことが嫌いだった。  でも、もっと最悪なことには国立ありかが―――僕の密かに想っていたありかが―――入学して間もなくから、そういう連中と好んでつるみ、休み時間にはやつらのなかに入ってろくでもない話―――流行っているテレビ番組の話や、仲間うちでしか通じないジョークなど―――をするようになって、  そして……吉高に対して恋心を抱き始めたことだった。
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