さよならチュウスイ

1/11
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 さっきから、ふるえが止まらない。  ぼくは大腸。  からだのまん中におさまって、食物のカスや細菌を外へ送り出す仕事をしている。だけど、今、仕事どころじゃないんだ。小刻みにふるえながら、キリキリと走る痛みをこらえるのが精いっぱい。  イテテテテ。 「ねえ、大丈夫?」  ぼくは、左下にいる直腸に声をかけた。 「ダメそうだ。遠くのほうから、波が押し寄せてくるような……」 「波か……」  直腸にしては、うまいことをいう。ふだんは、「水分もっとよこせ」とか、「水分、多すぎ」とか、水分調節のことばっかりなんだ。  まあ、送り出すもののかたさを調節しないと、直腸の下の肛門に傷がつくから、水分って大事なんだけどね。 「君は、大丈夫?」  右下にいる盲腸にも、声をかけてみた。 「すごく痛い。ズンズン、ズキズキする」  いつもおとなしい盲腸が、遠慮がちに、でも、はっきりと、痛みを訴えてきた。いやな予感がする。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!