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「また、この季節が巡った・・・もう何度この雪の季節を迎えるんだろうな・・・」
樹氷が太陽の光でキラキラと美しく輝く中を、一匹の老キタキツネがゆっくりと歩いていた。
老ギツネのイプはもう何十年も生きた老体を持ち上げてもう嗅覚もままならなくなった鼻を突き上げて、クンカクンカと当たりの匂いを嗅いだ。
しかし、雪の中は何も美味しそうな匂いもなく、ただひゃっこい冷気を纏った空気だけがイプの鼻の中を弄った。
「寒いなぁ・・・もう毛も歳だから不毛地帯だし、余計寒さが堪えるなあ・・・ハックション!!」
ドサッ!!
「おえっぷー!!ぶるぶるー!!クシャミしたら、木の上から枝の溜まった雪が直撃しおったわい。
もうこのパターンは、何百回も体感したわ。
今度こそ死ぬわと思ったわ。
あ、今わしはこの降雪の雪原で死に場所を探してたんだっけな・・・
だいぶ生きたし、まるで今一瞬わしの狐生が走馬灯になって流れてきよったわい。」
老ギツネのイプは、産まれてから子ギツネ時代に親ギツネの目を盗んで冒険に行った事や、辛い子別れの儀式、
そして親ギツネになって、今度は自らが子ギツネに子別れの儀式をしなければならなかったやるせなさや、
その親ギツネになった時にめとった番の今は亡き雌ギツネの優しい顔や、
その他狐生で出逢ったエゾシカやエゾリスやオジロワシやヒグマといった仲間達・・・
嗚呼・・・瞼が重い・・・やっぱりここが死に場所かな・・・
あ、ひとつまた走馬灯にあの忘れかけた不思議出逢いを思い出した・・・
丁度、今日の様な雪の日の出来事。」
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