わたしの宝物

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「ねえねえ、ママみて」 三歳になる娘の笑美(えみ)に、そう呼びかけられて振り向くと、にこにこと嬉しそうな顔で見つめられる。 「なに」 私はそれだけ返すと、床に転がったおもちゃや絵本を片付けていく。ベランダに近い窓際には夕方に取り込んだ洗濯物の山。シンクには、まだ洗えていない食器が残っていて、寝るまでにまだまだやることはたくさんある。 「ねえ、ほらみてよぉ」 ぐいぐいと服の裾を引っ張られ、「なによ!」と勢いよく振り向けば、バランスを崩した笑美が床に倒れ込んだ。その周りには、コロンとしたどんぐりが散らばっている。 「ああ〜、せっかくあげようとおもったのに」 笑美はそう言いながら、散らばったどんぐりを一つ一つ拾っていく。その後頭部を見た瞬間、私は急激な怒りに襲われ、「こら!」と大声をあげた。 「外のものは汚いから家の中に入れないでって言ったでしょ!中に虫でも入ってたらどうするの!」 そのまま笑美からどんぐりを取り上げた私は、ドカドカと音を立てながらゴミ箱へとそれを放り捨てた。後ろの方では、笑美がわんわんと泣く声が聞こえてくる。「うるさい!」と叫んでも、その泣き声が小さくなることはなく、私は娘をリビングに放置したままトイレの中へと駆け込んだ。
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